小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

花束を持つ手にはナイフを

INDEX|8ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

高部は仕事をする上では甘いのだとよく言われ、自分も甘いのだと思っている。裏切られてもマーリアの命を救い、彼女のことを心配してしまっているのだから。
「どうして?」
「生きていてほしいからだ」
 高部は弱弱しく微笑んだ。
「君に生きていてほしいからだ。俺が」
 高部の言葉にマーリアは何も言わない。
 高部はゆっくりと身を起こした。背中が燃えるように痛むが、その程度で命があるとすれば、いいほうだろう。
 アーダムの使った爆弾は小型であったおかげで被害は最低限に済んだようだ。この部屋が、こうした事態を予期して作られたものであるのも大きいだろう。
 部屋の中を見ていくと、天井まで爆弾の火によって煤けているが、それ以上の被害はないようだ。天井から降り注いでいた水もとまり、高部はほっと一息ついた。
 すぐにえにちに連絡し、マーリアを診てもらわなくてはいけない。
 高部はよろよろと懐から携帯をとりだした。
 水で濡れたせいか服が重く、体を動かすことも億通だ。
 とたんに背後からドアが開く音がして高部はどきりとして振り返った。ここでもし再び襲われたら、マーリアを護りきれる自信が高部にはない。
「よぉ」
「焼け死んでいなければ返事をしてください」
 ドアが開かれてかけられた声に高部は驚いて顔をあげた。
 ドアから入ってきたのは篠崎と平井であった。
「どうして」
「見張っていたに決まってるだろう」
「出るのが遅くなるのが、ヒーローというものですから」
 二人の言葉に高部は呆気にとられたが、自然と笑みが零れて来た。
 正直、このままでは自分も危ない。二人がいてくれて助かったという気持ちのほうが強い。
「マーリアが刺された。すぐにえにちを呼んでくれ」
「お前も火傷してるだろう」
 篠崎が言いながら携帯で連絡をとっているのに高部はふらつきながら立ち上がった。
「お前、どこ行くつもりだよ」
「攫われたんだ。女の子が……助けないと」
「その体でですか?」
 平井が感情の見えない表情で尋ねてくるのに高部は迷わずに頷いた。火傷は痛むが、それにかまけてはいては助けられる命が助けられなくなる。
 あの男は命をなんとも思ってはいない。このままではあの娘は殺されてしまう。
「俺は追うから、二人は」
 高部が言おうとしたとき、篠崎のチョップが高部の脳天に直撃した。
「先走るんじゃねぇよ。奴がいく場所もわかってねーのに」
「そうですよー。何も分かってないのにホテルから出ても馬鹿な上に、悪目立ちしますよ。その見た目は」
 二人の言葉が尤もなのに高部は何も言わない。
 それに、二人は自分のことを見張っているといっていたことを高部は思い出した。
「見張っているって」
「片桐さんからの命令ですよ」
「こいつの動きが怪しいからカマかけてたんだと」
 二人の言葉に高部は自分がまんまと囮にされたことを理解した。
「なんて奴だ」
 高部は苦々しく吐き捨てたのに篠崎が笑った。
「まぁ、少し休めよ。とにかく、手当てしねぇとな」
 数分してえにちが部屋の中に到着し、てきぱきと高部とマーリアの治療にあたってくれた。
 ホテルのほうは、フウマの息がかかったところだけあってこのうような事態も予想していたのか驚くことも騒ぎになることもない。幸いにも一番最上階で、この階には客がいなかった。
 高部は火傷に薬を塗ってもらったあと包帯をまいただけで済んだ。
 部屋の端っこで篠崎がノートのパソコンを開いて、キィを叩いている。
 高部はうしろからその画面を見た。
「どうだ」
「あー、任せろ。ぜってー見つける」
「でよ、どーするよ」
「なにがだ」
「その組織だよ。うちの情報員を甘く見られたら困る。場所くらいすぐにわかったぜ。相手が動いてくれたおかげでな……これ上に報告するか?」
「俺が、引き受けたことだ」
 理性では片桐に報告すべきだと高部は思う。しかし、このままあいつを逃がしたままにするのは高部の気持ちが許さない。
 マーリアを裏切り、刺した男だけは自分の手で殺したい。
 この世界は人を踏みにじる人間が大勢いる。その踏みにじられないためにも力を得た。純粋な力に勝るものはなにもない。悲しい話だが、それは真実だ。その力で高部は自分が殺してもいいと思う相手を若いときは殺していった。力を持って相手を踏みにじるなら、その相手を殺すしかない。きれいごとで物事が済むほどに世界は優しくないのだ。しかし、いくら殺しても、あとからあとから同じようなやつは出てくる。自分のしていることはひどく不毛だと悟った。
 高部は殺しの仕事の不毛さから逃げたのだ。
 だが、今はもう逃げたくない。いくら不毛でも、いくら終わらなくても。それでも自分は目の前にあるものを目を伏せて見ないふりはしたくない。 
 その中で踏みにじられている者のためにも。
「では、どうぞ」
 平井が差し出してきた黒いバックに高部は眼を瞬かせて、受け取った。手にずっしりとした重さを感じ、中をあけてみて驚いた。
「これ」
「用意しておきました。手入れしているので、とっても切れ味良さそうですよ。それ」
「おう、車は用意してるぜ。いくかい?」
「……二人とも、いいのか?」
「楽しそうなので」
「新しい武器の威力みてみたいからな」
 二人の言葉に高部は苦笑いした。
「えにち、ここのことを頼む」
「ああ、わかった。いってこい」
 えにちが手をふってくれたのに高部は微笑み、マーリアを見た。えにちの与えてくれた痛み止めで今は眠っている。
 裏切りについてはマーリアは許せない。それでも彼女は高部を殺さないようにと努力してくれた。彼女の中に残る理性が。
 もう、そんな心の優しい子が傷つかないように。
高部は篠崎と平井と共に走り出した。
 
 ホテルの地下駐車場にはフウマのものである白いワゴン車が置かれていた。車内は改造されて、広く、またその中には違法の武器がぎっしりと詰まっている。
 篠崎が運転席に腰掛、高部たちが後部席に身を置くと、乱暴に車は走り出した。
 あまりの乱暴さに車内が大きく揺れて、高部は窓に頭にぶつけてしまった。
「篠崎、もう少し安全運転しろ。お前、俺たちを殺すつもりか。または捕まりたいのか。この車で捕まったら、洒落にならないぞ」
「うっせー。久々で興奮してんだよ」
 運転席から篠崎の声がして高部は苦笑いした。
「それで、奴等のアジトはどこなんだ」
「ノートパソコンに出てるだろう! 相手のことも全部、それに載ってるぜ」
 ノートパソコンはお前の横なんだよと高部は心の中で言い返して、ため息をつきつつなんとかバランスをとって助手席に置いてあるひらいたままのノートパソコンを赤信号で車が止まったチャンスでとって高部は膝に置くと、画面を見た。地図がのり、そこには赤い点がある。そこがアジトだろう。
「ビルの内部はどうなってる。あと、組織の奴の顔とか」
「自分で見ろ!」
作品名:花束を持つ手にはナイフを 作家名:旋律