コーンスープのお返し
やがて言い淀んでいたらしい哉子の唇からどことなく違和感の伴う言葉が吐き出されたとき、あゆむは動きを止めそうになっていた頭を再び回転させはじめた。それは一体、どういった意味で、どういった意図で、一体、どうして、そんな言葉を今――。
(哉子がすきなのは、わたしなんかじゃないのに)
「だったらこのチョコは、なおさら哉子には上げられない」
哉子から明らかに安堵したらしい雰囲気が伝わってきたが、あゆむはもはや彼女のほうを見ていなかった。頭の中には真城嬢のプロフィールが浮かんでいる。出席番号40番。血液型はBO型で12月2日生まれのいて座。すきなものはお笑いと少女漫画と猫。クラスでは保健委員を務めているが帰宅部。1学期の期末考査が学年9位だったという才媛としての一面も持つ。好物は紙パック入りのミルクティー。たぶん自分とは真逆の、見るからに可愛らしい女の子。
「真城さんに、悪いもんね」
「え、なんでそこで冴……」
「持って帰って、自分でコーヒーでも買って、食べる。甘く、しすぎたと思うから」
「あゆむ、ちょっと待って!」
「がんばって、哉子」
呼び止める声も聞かずに一目散に走り出す。そうしながらも今まで堪えていた生温い液体がどっと大量に流れ出すのに任せることにした。こすって明日赤くしてしまったら、一気に噂がたってしまう。周りに同性しかいないものだから、いつだってクラスメイトはその類の噂に飢えているのだ。だから友達がもとより少ないあゆむのこと、名前くらいしか知らない相手に勘繰られるなんてまっぴら。ああ、やっぱり遅かったんだ。今からだともはや取り返しがつかない。
作品名:コーンスープのお返し 作家名:しもてぃ