灰色の世界
弟たちは今どうしているのでしょうか。幸せ、でしょうか。
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窓の黄色が濃くなって、茶色になったころ兄弟はみんないなくなりました。
部屋にいるのは、僕とお母さんだけになりました。
確か、その時期はお母さんの体調が悪くなった時期でもありました。僕はその時、お母さんは病気じゃなくて、自分の子供がいなくなって寂しかったのだと思っていました。
なぜなら、僕も寂しかったからです。もう、部屋を走り回っても僕のお尻を追いかけてくれる弟はいません。僕に体当たりをして、甘噛みをしてくれる妹もいません。木がまた、僕たちを驚かせようとしても、守る相手はいません。
今思えば寂しいだけではなく、つまらないという気持ちの方が強かったのかもしれません。
お母さんはずっと床で寝ていました。
よく、寝ながら僕にこう言っていました。まだお腹にいたころはあんたたちは、やんちゃだった。お腹の中で暴れ回るもんだから、お母さん痛くて痛くて困っちゃったよ。
お腹が痛くなるなら子供は作らない、と僕が言うと、私は痛かったけどあんたなら痛くないよ、と笑っていました。どういう意味でしょう。
お母さんは、また子供が作りたかったのかもしれません。
僕の四角い部屋の両面には灰色の壁があり、もう片面には窓、もう片面にはドアがあります。ドアというのは怪獣の出入り口のことです。
ドアからは、僕たちの部屋と同じような部屋がたくさん見えます。各部屋には僕の仲間が二、三にんずつ入っていて、共同生活をしているのです。
とっても痩せているひと、大きな声で怒鳴り散らすひと、メソメソ泣いているひと。僕のいるこの世界にはたくさんのひとが暮らしています。
ある日、僕の方からは見えない、奥の部屋から「お母さん」を呼ぶ声が聞こえました。
どんなひとが叫んでいたのでしょうか。寝る、食べる事以外に僕ができることは、聞くことと考えることだけでした。だから、喉が腫れぼてて悲鳴をあげているようなとても悲しくて切ない泣き声を聞いて、そのひとの姿を想像していたものです。とっても可愛らしい声をしていたので、きっと女性だったのでしょう。
僕は、その声を初めて聞いたとき、顔も臭いも知らない彼女に「なっちゃん」という名前をつけました。泣き虫のなっちゃんです。