灰色の世界
つらいです。お腹が痛くてたまりません。お腹が破裂しそうです。さっき食べたご飯がいけないのでしょうか。僕はどうなるのでしょうか。
死ぬのでしょうか。
(そうだ、子供作れコドモ。ガキんちょがいれば今すぐ死んだってお釣りがくる)
ケンさん。子供が作れずに僕は死ぬかもしれません。ひとりぼっちで死ぬしかないのです。
お母さんもこんな気持ちだったのでしょうか。いえ、お母さんは幸せです。僕が一緒にいたんですから、ひとりぼっちじゃありません。
ケンさんが言いたかったこと、少しだけわかります。
お腹の痛みは更に増しました。部屋中に僕の吐瀉物が散らばっています。
廊下から怪獣の足音が近づいてきています。もう朝になったのでしょう。
部屋に入って僕を見た怪獣は、ご飯を置かずに部屋から立ち去りました。
少し間を開けて怪獣が戻ってきました。僕を抱き上げると、ドアを開け廊下へと出ました。奥へ奥へと運ばれます。廊下の先に灰色の壁が見えてくると右側に曲がり、その突き当たりの部屋のドアを開けました。
そして、僕を小さな穴に放り投げました。怪獣には入れないような小さな穴です。
滑りながら最後まで落ちると、大きな部屋にたどり着きました。仲間が五にんいます。みんな震えて尻尾が垂れています。きっと、僕も同じことになっているはずです。
僕は知っていました。向かい側のおばあちゃんの体調が悪くなったことがありました。たくさん吐いて、ほとんど動かなくなったのです。彼女はその日のうちに怪獣に連れて行かれ帰ってきませんでした。
それから気づきました。廊下の奥の奥から命乞いをしている声が微かに漏れて流れていることを。
とても怖いです。でも、僕は諦めているからかまいません。死んでもいいのです。
目を閉じようとしたとき、部屋の真ん中に座っている長毛の女性と目が合いました。僕が首を振っても、彼女の視線は全くはずれませんでした。
そして、ゆっくりと近づいて言ったのです。あなた妊娠してるのね、と
(まだお腹にいたころはあんたたちは、やんちゃだった。お腹の中で暴れ回るもんだから、お母さん痛くて痛くて困っちゃったよ)
痛いです。痛いですよお母さん。僕なら痛くないって言ったじゃないですか。お母さんの嘘つき。
ケンさん、僕は幸せになれるかもしれません。ケンさんの子供ですよ。