灰色の世界
部屋の中が息苦しくなってきました。部屋に隅にいるおじいちゃんはぐったりとしています。若い男性は壁に前足を付けて、バタバタとジャンプしています。
どうして僕は気づけなかったのでしょうか。赤ちゃんは僕の中にずっといたのに。
穴を掘らないと。僕は思いました。爪は半分しか残ってませんが、やれることは全てやらないと。僕はお母さんになるんだ。
意識がどこかへ行ったり来たりしています。足は僕の頭の命令を聞かずに、もくもくと穴を掘っています。僕は声を出しているのに、何も聞こえません。
お願いします。僕をまだ殺さないで。赤ちゃんがいるんです。僕を殺さないで。赤ちゃんを殺さないで!
ケンさん、お母さん、コータくん、僕を助けてください。
僕に子供を産ませてください!
6
今日は明るい夜です。
娘が教えてくれました。
他の息子、娘たちはみんな新しい群れに迎えられ、外の世界で楽しく暮らしているはずです。
この娘は負けん気が強くて、木や怪獣に向かって威嚇をします。怪獣たちは、あの子をさわれないままこの場を去っていきました。
だけどこの子は優しい子です。夜になると、あの子は必ずこう言います。
今日は明るい夜だよ。僕たちの部屋だけ月の光で溢れてるんだ。お母さんは見えないだろうけど、本当だよ。
ふとももで感じる娘の身体は、もう僕と同じくらいの大きさです。もう、僕よりも強く美しく成長したはずです。顔を鼻で探り舐めてあげると、娘は私の身体を舐めてきれいにしました。
きっとこの子は、この世界でたくさんのことを学ぶでしょう。たくさんの出会いをするでしょう。
でも、娘は妙に臆病なところがあるので、妊娠しているときはお腹が痛いということは教えないでおこうと思います。僕も孫が欲しいのです。
お母さん僕は満足です。
ケンさん、お釣りがきましたよ。
怪獣の足音が聞こえてきます。
おいしそうなご飯の匂いも漂ってきました。
きっと、娘はご馳走が食べたいとせがむでしょう。
でも、僕は食べさせません。
この世界では、それが一番なのですから。