灰色の世界
彼と僕はすぐに仲良くなりました。ケンさんは何も知らない僕に、外の話をたくさんしてくれたからです。
外はとても広く、いくら走っても壁がないそうです。だから端っこまで行こうと頑張っても、自分が疲れてしまうんだそうです。正直、僕ならそんなことにはならないと思います。なんたって、僕は今まで走って疲れたことがないからです。
そんな話を僕がすると、ケンさんは笑って、俺もそうだった、と言いました。なんだか馬鹿にされたような気がします。
ケンさんは僕が何を言っても、のらりくらりと言葉巧みに躱してしまうので、今でも負けたような気分になります。
ケンさんは大人でした。落ち着いて力が強くて何でも知っています。もしかしたら、僕よりもこの世界を知っていたのかもしれません。
お母さんがいなくなったのに、僕は薄情で親不孝者かもしれません。お母さんが部屋から出て行ったから、ケンさんが来てくれたのだと、そのときは思っていました。
彼の話はとても面白かったし、僕が寂しいと思ったときにはすぐに慰めてくれました。夜には僕と一緒に寄り添ってくれます。お母さんが元気だった頃と同じような、弟たちがまだいたころと同じような、幸せな暖かさがありました。
僕はケンさんのことが大好きでした。
お母さんは全身茶色い毛に覆われていて、ケンさんは白い毛に覆われています。
そして僕はというと、背中は茶色いけど、お腹の部分は白い毛が生えています。尻尾はケンさんと同じように、半分くらいの位置から直角に曲がり、腰に先っぽが当たっています。耳はお母さんと同じでピンと元気よく立っています。
もしかすると、ケンさんは僕のお父さんなのかもしれません。
ケンさんはそれを聞いて、馬鹿笑いをしていました。涙を溜めて、それはいいそれはいい、と何度も言いました。俺も最後に子供が残せたんだ、と冗談を交えて。
そしてこう言いました。
今のうちに大切なものをたくさん用意しておくんだ。お前が年取ったときに思い出して楽しめるものをたくさん。つらくなったらそれを思い出せばいい。そうだ、子供作れコドモ。ガキんちょがいれば今すぐ死んだってお釣りがくる。
僕も子供が欲しかったけど作れませんでした。
確かこんなことも言っていました。
外に出たくないか、と。