灰色の世界
僕たちのご飯の時間は、太陽が昇り空が濃い青色になったころに一回、太陽が半分沈み、空が水色になり外が騒がしくなる頃に一回。合計二回です。僕のお尻よりも強い匂いで、ものすごく堅いご飯です。生まれてから今日まで、ずっと同じご飯を食べています。
僕はご飯の時間を覚えています。時間に少しでも遅れたら、大きな声で催促をします。
その日は、時間通りにご飯が来ました。僕だけの分で、お母さんの分は運ばれませんでした。お母さんは食欲がないので、ご飯が遅れてもちっとも怒りませんでした。
いくらなんでも遅すぎる。
忘れるなんて今までなかったのに。
今日はいつもと違う。
――胸騒ぎ
今思えば、そういう感情があったのかもしれません。
結局、お母さんにご飯が運ばれてきたのは、空は真っ黒になり、星がまばたきをし始めた頃でした。
いつも通り怪獣が持ってきました。
いつも通り廊下を歩いてきました。
いつも通り僕たちの部屋のドアを開きました。
それから、部屋に入らず怪獣は何分もの間その場から動きませんでした。ご飯を手に持ったまま、僕たちに手をさしのべることもありません。
そして、ご飯を床に置きました。いつもと違うご馳走です。
僕は興奮して真っ先に食べようとしましたが、怪獣の腕に押さえつけられ食べることができませんでした。今思えば、僕も恥ずかしいことをしていたものです。
そのご馳走はお母さんが食べました。
ご飯を食べている間、久しぶりにお母さんが目を開きました。真っ白いきれいな目をしていました。
お母さんに僕は、ご馳走を食べたい、と何度もアピールしましたが、食べさせてくれませんでした。
怪獣に押さえつけられた僕を、じっと見つめながらご飯を食べていました。何度も吐きながら、一口ひとくち。
次の日、お母さんはいなくなりました。
5
お母さんがいなくなっても、僕は寂しくありませんでした。ケンさんがいたからです。
ケンさんが僕の部屋にやってきたのは、お母さんがいなくなってから二日後のことでした。
ケンさんの身体は、全身真っ白い毛で覆われているものの、同じ色でも柔らかい毛と堅い毛に別れています。耳はそこらのおじいさんと違い、ピンと立っていて、鼻も潤っていて、とても逞しく精悍な顔立ちをした男性だと思いました。