獏の見る夢
目覚め。
激しい動悸と汗、震える手で顔を覆う。一人用の小さな冷蔵庫にフラフラとした足取りで向かい、中から水の入ったペットボトルを取り出す。ペットボトルを開けようとするのだが、手が震えて上手く蓋が外せない。落ち着け、落ち着け、夢じゃないか、そう、夢……。
やっとの思いで蓋を開けると、中に満たされている澄んだ液体を一気に喉へと流しこんだ。
ゴクリゴクリと音を立てながら水を飲み、はーっと息を大きく吐いた。
体に上手く力が入らない。倒れこむようにソファへと体をゆだねると、天井をそっと仰ぎ見た。見なれないその天井は、紛れもなく昨日渡された俺の事務所の物だ。そうだ現実だ、今の、この俺は……現実の中にいるんだ。
どんなに嫌な思いをしても、所詮は夢。目覚めれば現実で、そこには金があるんだ。大したことは無い。そうだ、こんな事は大したことじゃないぞ。じきに慣れる。
「大したことじゃない」
自分に言い聞かせるように、もう一度小さくそう呟いてから、入口の扉へと向かい掛かっている札を‘未使用’の方へと裏返した。