獏の見る夢
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必要な手続きを済ませ、俺は正式に夢喰いとなった。
古ぼけた雑居ビルの一室に‘夢喰い装置’が設置され、晴れてそこは俺の事務所となった。俺の事務所――ほんの数日前まで浮浪者同然のような生活をしていたのに、夢喰いになった途端にこれだ。はっきり言って笑いが止まらない。
ドンドンッ
込み上げる笑いを抑えようと躍起になっていると、ふいに荒々しいノックの音が室内に響き渡った。
「はい」
返事をしてドアを開けると、そこには50代半ば位の恰幅の良い、いかにも羽振りの良さそうな男が立っていた。
「案内所に紹介されて来た。夢を食べてくれ」
男はそう言うと、俺の返事も待たずにドスドスと足音を立てながら、部屋の奥へと入っていく。
扉に掛かっている札を「使用中」に変えてから、俺も男の後を追った。
‘案内所’と言っていたな……。夢喰いに依頼者を派遣する案内所と言う場も政府は用意していて、恐らくはそこで‘なり立て’の俺に気を使って、この男を派遣してくれたのだろう。全くもっていたれりつくせり! 内心拍手喝采の極みである。
「どうした! 早くしなさい!」
またも込み上げる笑いを抑えていると、奥から男のイライラとした声が飛んできた。
「はい、すぐに!」
急ぎ足で装置に向かうと、男は既に装置Aに身を沈めていた。
マニュアル通りに電極をセットし、装置Bの中へと入る。
装置の中に設置されているスイッチを押すと、俺は静かに目を閉じた。
視界が黒に染まったと同時に、意識が遠い所へと引っ張られていくような感覚が全身を襲う。――――夢に落ちる……。