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獏の見る夢

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 そこで活躍するのがこの‘夢喰いシステム’である。
 ‘夢喰い’となったものは、依頼者の夢を自分の物とする。以降、その夢は疑似体験のように夢喰いが見続ける事となる。夢喰いに渡した夢を依頼者が見る事は二度と無い。夢喰いはその報酬として多額の金を得る事が出来る。

 このシステムに対する世間の声は大きく割れた。
 が、明らかに需要のあるシステムだった。そして昨年末――政府は三つの条件の元、夢喰い装置を正式に稼働する事を認めたのである。

条件一
 夢喰いは依頼者の夢、その他個人情報を決して他に漏らしてはならない。秘密の厳守。
条件二
 夢喰いを辞める際は、正式な手続きで持って離職する事。そして一度辞めた者が、再び夢喰いになる事は禁止する。
条件三
 夢喰いは決して‘依頼者’になってはならない。

 以上の三つが政府からの絶対的な条件だった。中でも条件三は特に重要で、夢喰いは他の人間から受け入れた悪夢が、どんなに辛いものだったとしても、それをまた別の夢喰いに喰わせると言う事は絶対にしてはならない禁忌とされている。

 俺はこの条件を見た時「たったこれだけか」と思った。
 俺にとっては何の枷にもならない条件だ。
 他人の悪夢を見続ける。結構な事じゃないか。俺にはもう何もないのだから。夢喰いの中には「こんな自分でも誰かの役に立ちたくて」なんていう偽善を言うやつもいる。世間もそういう偽善をもってよしとする風潮がある。馬鹿馬鹿しい。
 俺が夢喰いになる理由はただ一つ。


 ――金が欲しい。


 それだけだ。シンプルな答え。だが、真実の答えだ。
 何も無い俺が何かを手にしようと思った時、必要な物は金以外に見当たらない。
 金さえあれば全てが変わる。そうだろう?
作品名:獏の見る夢 作家名:有馬音文