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獏の見る夢

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 夢喰い――それは簡単に言ってしまえば、人の夢を自分の夢とする事。
 この時の‘夢’とはそのままの意味での‘夢’である。目を閉じている時に見るあの夢。
 夢には幸福に満ち足りた夢や、夢と現実の境も分からなくなる程にリアルなもの、果ては悪夢まで様々なものがある。
 今から三年ほど前、松田博士という日本屈指の科学者が‘夢喰い装置’という物の開発に成功した。
 装置Aに被験者Aを入れ、装置Bに被験者Bを入れる。被験者Aは任意の実際に見た、そして記憶から消し去りたい‘夢’を強く思念する。そして両装置のスイッチを入れると、被験者Aの‘夢’は、両装置をつなぐパイプに流れ込み、そしてそこから被験者Bの頭部に設置された電極を伝い、Aの‘夢’はそのままBが‘受け継ぐ’というのだ。
 Aからはその夢の記憶は消えて、Bはその夢を見なければならなくなる――というのが‘夢喰い’システムの概要である。

 人が成功する為には、皆どこかしら心に傷を負うのだ。いや、負わずして成功したとしても、成功者には傷が付きまとうものだ。勿論、傷を持つ者は成功者だけではない。犯罪等に巻き込まれ、凄惨な過去を持つ者だってそうだろう。事件にはならないまでも、学校生活での虐めが、いつまでも脳にこびりついている者だっているだろう。
 そうやって心の深く、深層心理のさらに奥に刻み込まれた傷は、目を閉じる度に悪夢となって甦る。繰り返し、繰り返し、永遠のように蘇る。
作品名:獏の見る夢 作家名:有馬音文