獏の見る夢
そして何度でも目覚めよう。この愛すべき現実の中で
目を開けると、そこは見慣れた天井だった。真っ白で清廉で一点の穢れも無い――――私の研究室。
「実験は成功ですね、博士!」
「おめでとうございます!」
目覚めるなり賞賛の声が投げかけられる。
「ああ……そうだな」
私はゆっくりと身を起こす。私ももう随分と年を取った。こんな動作一つでさえ随分と緩慢なものだ。
起き上がり自分を包み込んでいた装置に目を馳せ、そっと撫でた。
「満足のいく悪夢は見られましたか?」
「ああ」
研究員の一人に尋ねられ、私は頷きながら答える。
「随分たっぷりと見てしまったよ。危うく帰って来られないかと思ったくらいだ」
私のその言葉に研究員達がドッと笑った。半分冗談ではないのだがな……。
「まだまだ調整は必要だが、おおむね成功と言えよう。集めた悪夢の質も悪くない」
装置の正面に設置されたモニターの中では少女が笑っている。透けるような白い肌、闇よりも深い黒くて長い髪。そしてこの世のものとは思えない程に美しい顔立ちをした――――私の愛する機械人形‘メメント’。
『博士、おはようございます』
モニターの中からメメントが言葉を投げかける。
「おはよう、メメント」
私が挨拶を返すとメメントは嬉しそうに目を細めた。
「メメントは素晴らしい人工知能です! 悪夢から開放するキーシステムはメメント意外にあり得ません! さすがは松田博士です!」
研究員達の賞賛を浴びながら、私は夢の世界に思いを馳せた。
若く、世界そのものに絶望している‘俺’が夢の中で‘松田博士’の作った‘夢喰い装置’なるものに翻弄され、その中で現実はそんなに悪い物では無かったと思い、そして願う。――――変わらない現実を。