獏の見る夢
『辛い現実には、もっと辛い悪夢を』
メメントが澄んだ声で囁いた。
「そうだな、メメント。そしてその中で‘現実もそう悪くはない’と、辛いのは自分だけでは無いのだからと……少しだけ前を向いてくれたのなら、私はとても幸せだよ……」
モニターの中の少女を見ながら老いぼれの私が今さら何を思うのか。しかし、これは――――
「これは非難の目に晒される研究かもしれません。しかし人間を救うのは幸福だけではありません。不幸よりも辛い悪夢。それが人を救う事もある。そしてそれを必要としている人間は必ずいる……それが博士の‘夢’であり、我らの理念です」
実験の成功に興奮冷めやらない調子でそう発言する研究員の一人に向って、私はそっと微笑む。
真っ白な部屋の中には温かな光が差し込んでいる。
そうだ、現実の太陽はこんなにも温かい。
「ごらん、メメント。……これは私の‘夢’、そのものだよ」
獏の見る夢 了