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獏の見る夢

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 ありとあらゆる痛みと絶望と嘆きと自責と後悔と恨み――――言い尽くせない程の負の感情、表現できない程の苦痛が全身を代わる代わる襲い続ける。
 悪夢と言う名の嵐の中心に立ち、そこから溢れ出てきた‘現実’に身をゆだね、苦しみに苛まれる。

 少し距離を置いてあの少女の‘現実’が見える。その少女の後ろには見知らぬ男が立っていて、その男も同じように悪夢の嵐の中心に立っている。恐らく少女が手を出した‘空っぽ’はあの男だったのだろう。その男から少し離れた所にも、やはり同じように悪夢の嵐の中心で立っている人間がいる。
 連鎖しているのだ。皆、誰かに押し付けようとしたのだ。自分が押しつけられたように。俺の近くにももしかすると近いうちに新しい悪夢の嵐が出来るのかもしれない。‘空っぽ’になった俺を、誰かが俺が少女にしたように利用するのかもしれない。

 永遠に……? ――――いや、違うと思う。これはやっぱり‘悪夢’だ。‘現実’じゃ無い。そう、夢は夢だ。夢は悪い夢ばかりじゃない、現実から逃げられる夢だってあるじゃないか。そして夢でも現実でも逃避する事は決して悪いことじゃない。逃げながら考える事だって時には重要な事なのだから。

 俺はきっと前を見据えて瞬間、少女に向って走り出した。
少女の周りを取り囲む悪夢に捕まらないように、確固たる意志を持って少女に近付き、そして彼女の手を握った。ゴオオオオオオッと言う悪夢の嵐の中で、それでも俺は手を離さずに彼女を見つめ続け、心からの言葉を発した。

「帰ろう。夢は終わりだ」

 俺の言葉に少女はにっこりと微笑んだ。今度こそ穏やかな微笑みだった。

 そして小さな唇をそっと開いてこう言うのだ。



「はい、博士」
作品名:獏の見る夢 作家名:有馬音文