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獏の見る夢

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 ゴォォォォオォォォッ! という唸りをあげながら、風が舞い起こる。俺を中心にして悪夢の映像が周囲をグルグルと廻っている。悪夢の中から目玉の飛び出した男がひょろりと現れ「兄さぁん」と言うと、俺の肩に手を置いた。肩に乗った冷たい感触に目を奪われていると、ぶらんと垂れ下った舌が俺の首筋をそっと撫ぜた。

「や、やめろ! 俺はお前の兄さんなんかじゃない!」

 ‘弟’を振り払い俺は駆け出した。前へ! 前へ!
 そうして逃げた先には‘友達’がいた。教室。たくさんの‘友達’。

「あんたなんか友達なはずないじゃん!」

 ‘友達’の一人がそう言って俺の腹を思い切り蹴り飛ばした。やめろ、やめてくれ! 俺の願いとは裏腹に、届くのは耳にこびりつくばかりの嘲笑。

「やめろ! 笑うな!」

 叫ぶやいなや、目の前で‘友達達’が一斉に裂けた。頭上から無数のガラスが落ち、その大きく割れたガラスは目の前の人間達の眼球を掠め鼻を裂き、皮ごとこそぎ落とす……! 赤い皮膚がぬらぬらと輝く無数の‘友達’!
 そこから逃げる為に俺は車に乗り込む。一刻も早くあそこから逃げなくては! アクセルをふかすと、突然目の前に何かが現われた! ブレーキを踏むが間に合わない。ドンッという鈍い音と共に車は停止した。慌てて車を降りる。そこには血まみれの老婆が横たわっている。殺したのか……? 俺が? 俺が? 俺が? 鳴り響くサイレンの音。血の赤。赤。サイレン。赤。サイレン。赤。サイレン。ふいに息苦しくなる。どこだ? ここは……? そうだ、ここは俺の家だ。寝る前に吸った煙草の火が消えていなかった。そして燃える。燃える。何もかもが燃えている。思い出も命も飲み込んでいる。状況を判断するなり、俺は娘を助けようと駆け出した。娘は子供部屋にいるはずだ。しかし部屋に辿り着く前に大きな柱が倒れ、子供部屋は真っ赤に染まった。張り裂けんばかりの声で娘の名前を呼ぶ。反応はない。反応はない。反応はない。どうしてあんな事を言ってしまったんだろう? 仲直りもしないまま、君は死んでしまった。なぜ? なぜなんだ!? あの日、君はどうして……どうして……!
 夢は終わらない。いや、現実が終わらない。グルグルと廻った世界から、次から次へと襲い掛かってくる映像の波が止まらない。
作品名:獏の見る夢 作家名:有馬音文