獏の見る夢
「あなたは禁忌を犯した。条件三を破り、自分が受け継いだ悪夢を私に託そうとしている」
「それの何が悪い!? お前は白痴だ! だから何をしたっていいのだ! 俺の夢を喰えばいい!」
思わず俺はムキになって、少女に荒っぽく詰め寄った。何かが……恐ろしい何かが始まるような予感が全身を支配していた。皮膚が粟立ち、知らずの内に震えが襲う。
「馬鹿ね。何度言えば分かるの? 私は白痴じゃ無い」
少女は俺を蔑みながらそう言うと、にたぁっと不気味に笑った。その目は先ほどまでの虚ろな眼差しではない。確固たる意志の光が宿る瞳。
「私も禁忌を犯したの。あなたと同じよ」
「な……っ」
「私も‘夢喰い’だった。そして苦しみに打ちひしがれていた時に、空っぽの人間を見つけたの。あなたが私を見つけたようにね」
「…………」
「私も同じように夢を流した。空っぽの人間に」
「……っ!」
「もう分かったでしょう? あなたがどうなるのか」
少女はもう一度にたぁっと笑った。今度はひどく愉快そうに見えた。
「始まるわ。夢が終わって、現実になる。現実のあなたは今から起こる事に耐えられない。そして空っぽになるの。あなたの現実は‘夢’その物になるのよ。今から起こる事は、夢じゃない。全て――それはあなたの現実……」