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獏の見る夢

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 俺の考えを言おうか。簡単な事だ。この少女に俺の抱え込んだ悪夢を全て流し込もうと思っているのだ。
 夢喰いが絶対に犯してはならない禁忌――それは自分の夢を他の人間に喰わせる事。なぜそんな条件があるかといえば、それは夢を抱え込んだ人間に、同じように夢を送り込めばどうなるか? 自分の抱えた夢と、他人が抱えこんだ夢……そんな物が一人の人間に流れたら? 恐らく送り込まれた方はただでは済むまい。
 また、夢喰い装置は夢喰いにしか所持出来ない。それも政府の厳重な監視の元に成り立っている。従って一般人に送り込む事は不可能といえる。仮に一般人を拉致なんぞしようものなら、あっという間にアシは付き(政府は定期的に監視しており監禁するなどもってのほかだし、外に出せば訴えられるのは分かり切っている)重い罰が科せられる。
 しかし相手が白痴ならばどうだろう? 恐らく脳の空き容量は頗る多いに違いないのだ。そこに俺の悪夢を流し込む。それの何がいけない? 所詮この少女には何も分かるまい。ワケの分からぬ言葉で泣きわめくのが精々といった所だろう。ならば、なんの問題もない。それどころか、またとない解決策ではないか?

 俺は少女の手を取り装置Bへと導くと、少女を横たわらせ電極を付け装置を稼働させた。少女は何の抵抗も見せなかった。それどころか、扉を閉める際に俺の顔を見て微笑んでいた。その表情は余りにも美しく神々しく、それゆえに何か薄ら寒いものすら感じた。

 だがそんな事をいつまでも気にしている程の余裕は、俺にはもう無かった。装置Aへと身を沈め、スイッチを押した。流し込みたい悪夢を次から次へと思い浮かべる。意識が飛んでいく。深く深く沈み高く高く浮上する。夢の中へ……。悪夢の園へ……。
作品名:獏の見る夢 作家名:有馬音文