獏の見る夢
*
「ヴオエエエエエエエ……ッ!!」
夢から覚めるなり盛大に吐瀉してしまった。
「ゴホッ! ガハッ!」
寝たままの姿勢で戻したものだから、汚物が気道を塞ぎそうになる。慌てて身を起こし、ガハガハと息を吐く。
瞼を閉じる事なんて出来そうになかった。あの人間に落ちたガラス。頭上から落ち、眼球を掠め鼻を裂き、皮ごとこそぎ落とすあの映像……!
「うぷっ!」
目の裏にちらつく惨劇に再び嘔吐が襲う。
「有難うございました!」
そんな俺を横目で見ながら礼を言い、依頼者の母親は少年の元へと駆けよった。
「大丈夫? もう大丈夫なの?」
「うん。なんだか、何を怖がっていたのか、それすら思い出せないんだ」
「ああ……っ!」
母親は息子を抱きしめ号泣している。
俺はその様子を恨みがましく睨みつけていた。
こんな、夢を……こんな夢をこれからも見続けろって言うのか!?
クソッ!!
どうしておれが……こんな……! こんな夢を……!