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獏の見る夢

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「押さえて」

 気の強い女子がそう言うと、男子が3人がかりで俺を抑えた。

「口、開けさせてよ」

 男子の手が口に伸び、無理やり顎を開かされる。

「ふふっ」

 目の前の女は笑いながら、俺の口めがけて雑巾を絞った。

「うぼぉ……!」

 口の中に溢れる汚水の臭いと感触が、胃の中から何かを込み上げさせる。

「口閉じさせて。飲ませて」

 男子は必死に口を抑えようとするが、俺は……俺は……。

「うげぇっ!!」

 大量に吐いてしまった。雑巾の汁と俺の胃液が混ざった物が目の前の女に降り注ぐ。

「いやーーーー!!」

 叫んだかと思うと、女はキッとこちらを睨みつけた。

「ふざけんなよっ!!」

 そう言って女は俺を殴り飛ばした。思わず椅子から転げ落ちる。逃げようとした所で男子に腕を掴まれた。そのまま足で腹を蹴ってくる。衝撃でその場に倒れこむと、再び周りをクラスメイトに囲まれた。殴られる。顔を殴られる。踏まれる。手、足、頭、腹。逃げようと思っても逃げ道なんてない。嘲笑だけが耳を支配する。どうして俺が? 一体俺が何をしたっていうんだ? 痛い! 臭い! 口の中は雑巾と胃液と血の味で滲んでいる。やめてくれ……! 誰か助けて……! 誰か! 誰か! 誰か!
作品名:獏の見る夢 作家名:有馬音文