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一滴の海は辛く

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 地球の育成者の俺は、アクアマリンを剥奪されそうになったけれど、それだけは許さないというように、クレイモアが襲い来る神々をなぎ倒した。
 意外なんだ。すっごい意外でさ、クレイモアってば本当に、マジで強かった。
 無手が主流のようだ。剣も嗜んでいた時期もあったと言う。クレイモアに剣は、絶対持たせまいと思った。
 戦神が出てきた、沢山。
 クレイモアだけじゃきついのか、来迦も戦う。
 彼女は「嫌ね、戦えるのは『来迦』プログラムの私だわ」だなんて言って、苦笑しながら、ナイフを投げたりしていた。
 鶏は下でコケコーて、威嚇している。
 でもさ、やっぱり、戦えない俺含めてそこは三人だなんて、きつくて。とか思ってたら、他の神々が立ち向かってくれた! 流石に驚いたよ。
 「彼は地球育成に相応しい! エピオラ……否、青玉を捕らえたのも彼だし、アースが認めた後継者だ!」
「そ、そうだ、アースが認めたんだ! それが何よりもの地球育成の暗黙の条件だ! 彼は青玉計画を壊した、そんな行動力がないと、地球育成には向かない!」
 紅玉、紅玉、とコール。
 その声は波紋のようにじょじょと広がり、やがて見物神全員が、青玉、紅玉、とコールをあげていて、戦神たちは、攻撃しようにも出来ないで居た。この場の全員を敵に回すことになるから。
 クレイモアが、打ち震える。
 どうした? と首をかしげて問うてみると、目の端を拭いながら、にへらと笑った。
 「僕、神々って嫌いだった」
「……知ってる」
「でもさ、その嫌いな奴らが、必死に紅玉を生かそうとしてる、青玉を生かそうとしている。なんか、感動しちゃって…。
今まで、こんなとこ、見たこと無い。大好きな人が、庇われるとこなんて、見たこと無い。なんか、素敵だね。他の神々、ちょうっとは好きになれたよ」

 神嫌いのクレイモアが、そんな台詞を吐くって、よっぽどな状況なんだな、なんて思い知る。
 俺はクレイモアに笑いかけてから、頭を撫でてやった。

 青玉の処分は、考え直しとなった。
 その言葉に喜んだ俺らは、連れ去られる青玉に手を伸ばして、ひらひらとふった。

 ばいばい、また会おうね。

 俺は待ってるから。
 いつまでも、いつまでも、判決が出るまで待ってるから。
 大丈夫、お前は生きられるよ。
 生きたいと願って、生きられないお前じゃない。
 お前はどんな手段を使っても生きて良いんだよ。
 だってそれが、罪滅ぼし。殺してしまった神々への。化身への。


 だから、ばいばい、またな。
 俺の死に神。

 「ねぇ、ところでさ、いつのまに君ら結婚したわけ?」
「内緒。それより、本当にいいのか、クレイモア? アースを暗殺したのは、青玉だぞ」
「今更。何を言ったって、君は殺させないつもりだろ? 許さないって、誓った癖に、何さ。……本当なら、あいつは大嫌いだし、あんな奴死んだっていい。
でも、それじゃあアースが悲しむ気がするんだ。仇を討て、とは言われてない。皆と仲良く、と言われた。
そのうちの皆に、入るんだ、青玉は。来迦も。紅玉もね。紅玉は、初めての友達だから」
 その顔は平然としていたけど、動作が少しぎこちないことから、照れているのだと悟った。照れるくらいなら、最初から言わなきゃ良いのに。友達がいっぺんに出来て嬉しいって、言いたいのかな?
 俺達は立ち上がって、その場を後にした。
 もう、此処にいる必要はない。
 この処刑場に。

 ショーはいかがでした? お気に召しましたか?
 大丈夫、あんたがお気に召さなくても、俺が気に入ってるから。
 ショーのお終い。

*

 「あれ、クレイモアは?」
 ラセルまで、浮遊してクレイモアの家へ向かった。
 クレイモアの家は、日本の現代の家調だった。和洋折衷の、デザイン重視の家みたいな。
 壁をすり抜けて、中にはいると、掃除をしていた来迦が見返して、いらっしゃい、と挨拶をしてくれた。
 俺は、きょろきょろと見回して、クレイモアを捜す。
その様子に気づいた来迦が教えてくれた。
「クレイモアちゃんなら、出かけてるわよ。アースちゃんのお墓に」
 「ああ、そうか…まぁたあいつ、愚痴りに行ってるんだな…」
「家では愚痴らないのに、アースちゃんのお墓には愚痴るのよ。少しくらい、私を頼ってくれても良いのにね」
 少しだけ悲しげな顔で、苦笑を浮かべた彼女に、俺は頭を撫でてやる。髪が柔らかい。本当に人工のもの? 流石神様だよ、来迦作った人。
 「大丈夫、クレイモアは来迦を頼ってるよ、きっと。
 ただ、まだ慣れてないだけだよ、他人に頼るのに。そのうち、アースのお墓じゃなく、あんたに愚痴るようになるよ」
「何で慣れてないの?」
「あいつ、人付き合い苦手なんだよ」
「兄様と同じね」
 くつりと言笑する彼女に、俺は苦笑を浮かべて、じゃあまたなと家を出た。
 アースのお墓の場所なら、知っている。
まだ慣れてない世界の中だけど、そこへなら一人でも行けそうだ。
 浮遊の技を、すっかり身に覚えた俺は、ふわふわと空を舞う。
 うーん、いつやっても、気持ちいい。
死人で幽霊になれた、良かった出来事の一つ。空を飛ぶのって、こんなに気持ちよかったんだ。
 空気を裂けて裂けて進むと、風が頬を触り、髪の毛をいじる。
 物体に触れなかったって、聞いたんだけどなぁ。ということは、風は物体じゃないってこと?
 なんかそれって、面白い。
 風の精霊とかいるのかな。なんて、ちょっと考えることが空想的すぎる?

 アースの墓と共に、クレイモアの姿を見つけた。
 クレイモアはしゃがみ込んで、偉い人のお墓のような――実際偉かったんだけど――、丸い形のかまくらのようなものに入ってるお墓に、話しかけている。
 話しかけようとしたら、俺の話題だったので、話しかけづらいので、そのまま空中で浮遊していた。

 「アース、紅玉ってばね、突飛なこと思いつくんだよ。やっぱり、思った通り、人間って理解し難いよ」
 ……悪かったな。
 「この間なんか、僕がリンゴを食べていたら、食べたいだなんて言い出して、透けて食べられないのに、囓ろうとしていたんだよ。で、食べられないから、僕に八つ当たり。馬鹿だよね」
 ……だって、美味しそうだったんだもん。
 幽霊が物を食べられない、これが幽霊になって嫌だったうちの一つ。
 「馬鹿で、突飛で、感情がすぐ表に出ちゃう。きれい事ばっかり。しかも流されやすい」
 ……図星だなんて俺は言わないぞ。
 「でもって、こうやって、盗み聞きなんかしたりするんだよ」
 え、ばれてた?
 見下ろすと、見上げるクレイモア。
 いつから気づいてたんだ、と問いかけると、最初からさ、と答えられた。
 「降りてこいよ、馬鹿」
「馬鹿に馬鹿って言われたくない」
「じゃあ、阿呆?」
「馬鹿は認めるんだな」
「だって、僕、馬鹿だもん。あーあ、折角君についての愚痴を吐こうとしてたのに、台無しさ。恋人との逢瀬は、邪魔しないでよ」
「……ごめん」
「…こうやって、素直に謝るところは、嫌いじゃないんだよ、アース。だから、安心して、僕は君の言ったとおり、皆と仲良くしているよ」
 …クレイモア。
 俺はクレイモアを、まじまじと見つめる。
作品名:一滴の海は辛く 作家名:かぎのえ