小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

一滴の海は辛く

INDEX|22ページ/28ページ|

次のページ前のページ
 

 二人とも俺の「作戦」を知っていた。
 だから、余計に楽しみなのだろう。

 「罪人、前へ」

 いっちばーん偉いか、それとも処刑の神か、とにかく怖そうな人が、そう命じた。
 あれ、あの人、サーファイトに最初会ったとき見かけたような…。取り巻きか。
 彼女の手元を見遣る。
 手は見えない、服の袖で隠れている。よし、この分じゃ、あれは見えない。つまりは、奪えない。

 目隠しされてる状態の彼女は、手枷足枷を取ってもらっていて、最後に目隠しを取ってもらった。

 実を言うと、その時にも、心臓がびくびくとした。
 クレイモア、あの無神経なクレイモアでさえ、どきどきすると言っている。
 来迦は、どきどきが判らないので、首をかしげたが、こういう空気は好きじゃないと言った。

 「おい」
「はい?」
 手枷を外していた人物が、俺の死に神に声をかける。
俺の死に神は、流石死に神長。流石、俺たちを騙しただけのことはある。
神経が図太い。何? 一体どうしましたの? みたいな顔をしてる。それもごく自然に。
「この指輪はなんだ?」
「ああ、これはね、アタシの伴侶が贈ってくれた結婚指輪だ」

 そう言うも、取り上げられるのは…

 タンポポの指輪。

 ふーっと俺は息をついた。
 その時、視線が、俺の死に神と合った。
 にやぁり、と笑ってやったら、にかっと笑われた。無邪気な笑み。滅多に見られないだろう。嬉しい自分が居るのが、してやられたって感じで悔しい。
 「罪人、処刑台へ」

 そう言われたので、彼女は処刑台に上がり…手を出して、糸を使い、処刑道具を締め上げて壊した! なんという破壊力なんだろう! 流石にびびる。
 何をする、との声が飛び交う。
 そんな中、彼女は、何も言うも無く、ただ、左手の指輪を掲げるように、見せた。

 何を掲げあげてるか、判らないだろうな、ってか予測も付かないかもね。
でも、次の瞬間には、判るだろうね。

 はい、三、二、一?

 「あ!! あれ、サファイアだ!!」
 見物神の中の一人が声をあげて、指をさす。
 それに驚いた皆が、指輪に注目する。

 綺麗なロイヤルブルーが光を受けて、輝き、鮮やかな色を魅せる。
 深い、深い小さな青。日本海のような、綺麗な青。紛れもなく、サファイア。

 サファイアを育てるのに、必要な指輪。
 サファイアを育成するものでないと、手には出来ない指輪。
 つまりは――先ほど、貰った指輪だ。
 「青玉! 青玉は何処だ、青玉、何てことをしてくれた?!」
 「旦那ぁ! アタシが青玉ですぜ。
ご覧の通り、サファイアが手にある。つまりは、青玉の名は、アタシに貰われたのさ」
 あはは!と笑う「青玉」。

 そう、もう俺は青玉ではない。
「青玉」の名は、俺の死に神に受け継がれた。

 彼女の生き残る方法を、皆で必死に一生懸命考えた。
 何も良い案が浮かばなかった。
 そんなとき、彼女がせめて名前だけでも変えたい、そう言ったときに、この作戦を思いついたのだ。

 あ、俺の新しい名前?
 紅玉。
 青玉と対になる名前が欲しかったんだ。
 俺にとっては名前なんて、単なる記号。どうでもいい。
 だけど、彼女はそうじゃなかった。
 それならば、大事に考えた青玉計画の青玉をあげようと決めた。

 「青玉がお前だと?! 冗談を…」
「じゃあ、何でアタシがこの指輪をしてるんだ? 理由がないだろう? 理由は、アタシがサファイアの育成者だからだ!」
「認めん、認めんぞ、そんなこと! 青玉、青玉は何処だ!?」
「青玉はそっちだけど、元青玉なら此処にいるぜ」

 そう言って、立ち上がった俺。冷やかすようにぱちぱちと拍手するわ、口笛吹くわのやんややんやの騒ぎ。鶏まで鳴いちゃってる。
 まぁ、俺らだけなんだけどね。クレイモアと来迦だけ。

 「青玉!」
「俺は、紅玉だ。青玉はそっち」
「黙れ! これはどういうことだ?! 罪人に、事もあろうか、さ、サファイアを!」
「だって、俺の手に二つもあるなんて、手に余っちゃうからさ、伴侶に手伝って貰うだけ」
「貴様、サファイアをなんだと思っている?!」
「じゃあ、聞くが、あんたらこそ、サファイアや地球をどう思って居るんだよ。
 天使を作るわ、死に神を作るわ、おまけに失敗作だったら処分処分。
 人間を操ろうとするわ、死人を地球に食べさせるわ、サファイアまで食べさせようとしてる!
おまけに、青玉計画なんてたいそうなタイトルで、反逆する神々を殺そうとしていたじゃないか!?」
 その言葉にざわつく周囲。
 どうやら、青玉計画は死に神長と、サーファイトと、サーファイトの取り巻きだけでの計画だったようだ。
 益々、してやったり、だ。
 更に続けて言う俺に、クレイモア。
 「その計画を、最初に止めるのが普通は常識だろ?」
「サファイアさえなければ、青玉計画さえなければ、アースの宮殿に仕える人はいた。アースの暗殺は、止められていたかもしれない!」
「ええい、黙れ、黙れ!」
 さっきまでの偉そうな顔はどうしたんだい、どっかの神様。マスク被りなよ、取れちゃってみっともないったら。
 「クレイドーラ様、どういうことですか!?」
「青玉計画とは?! 何故そのような計画が?!」
「奴の言うことを真に受けるな!」
 その言葉に反応したのは、俺じゃない。
 「真に受けるな、って言うな! 青玉計画の所為で、紅玉は殺されたんだよ? 今まで生きていた人生を捨てられたんだよ?
短い命は、嫌いだけど、短い命を、もっと短くする奴はもっと嫌いだ!」

 …クレイモア…。
 ん、有難う。なんか、少しだけ、だけど、報われた気がする。
 敬吾に通じるものを、あんたに少し感じるよ。
 ――でもさ、あんた花を毟って、自分も短くしてるよね?

「アタシが考え出したことだけど、それに同意したのは紛れもなくお前らだぜ、クレイドーラ」
 クレイドーラというのか、あの一番偉そうな奴は。
 そいつはそう聞くなり、顔を真っ赤にして、黙れと怒るが、それよりも先に周りの方が怒った。
 ものを投げつけたりする輩まで、でちゃって。
 トマトなんて、あんた、投げつけないでよ。もったいないでしょ、あんな奴に、あんな美味しいの投げるなんて。

 「やめろ、やめろ!」
「この世界に、今、相応しいのは誰だ? クレイドーラ、あんたか? 青玉、お前か?」
 混乱するクレイドーラに叫んでやる、問いかけてやる。
 俺の死に神は手を高々とあげて、誓いを。
「アタシは、青玉になってサファイアを育てても、神々は二度と殺さないって約束する!
この指輪にかけて!」
「黙れ、愚民!」
 咄嗟にでちゃったその言葉。
 そんな言葉出すようなやつに、ついていけるわけないよなぁ。

 青玉、作戦成功、おめでとう。
 手を叩いて、笑い転げると、青玉はどうもどうもと手を振り返す。

 処刑騒ぎは無くなった。
 だって、彼女の手のサファイアが取れないから。
 サファイアが彼女を受け付けたって事。
 サファイアに気に入られるのは嬉しいけれど、彼女までとるなよ?

 サファイアの育成者となった彼女。
作品名:一滴の海は辛く 作家名:かぎのえ