私の弟ハチと
視線の先にいたのは同じ高校の制服を着た男子生徒で、制服の新しさからして、多分ハチと同い年だ。
別に特別目立った印象もない、ほんのり上品で大人しそうな容姿の、それなりにかっこいい男の子である。
私の知りえる限りでは、ハチの交友関係の中に、彼は含まれていない。
「………… 」
何か言ったらしいハチに対して、思わず横を向いた。
そしてもう一度その子を見る。
なんと間抜けな絵であろうか、二人して知りもしない人の横顔をじっと見ている。
「 」
もう一度ハチが言った言葉を、私だけは聞き取れた。
だけれども、それが聞こえていたかのように彼が振り返る。
私は、思い切り顔を背けた。
それだけでも十分怪訝な顔をされたのを目の端に捉えて、ハチを盗み見ると、少しも視線を逸らさずに彼を見つめていた。
その表情があまりにも真剣で、私は思わず息をのんだ。
なんだろう、これは。
なんの映画を撮っているんだろう。
そのハチを彼が見つめかえす。
大人しいようで意外と目力が強いその瞳に、私はハチの鞄を引っ張った。
男の子が怪訝な顔のまま口を開く、やばい。
何がやばいかわからないけれど、やばい。
「……誰」
列車の通り過ぎた地下鉄のホームに、力が抜けた私と何とも言えない表情をしたハチ、それから乗り込もうと急いだのに間に合わなかったらしい学生がちらほら残っていた。
「知り合いじゃ、ないんだ」
やっぱり、という言葉を最初につけようかと思ってやめて、そう言うとハチが寂しそうな顔で頷いた。
「やっぱり、そうだよなー……」
「ハチ。あんた、探してたのって」
「……うん」
長年かけてハチが無意識に探していた相手は、私が勝手に想像していた儚げで愛らしい女の子でもなく、少し年上の美しい女性でもなく。
というかまず、女性でなく。
ハチと同い年の、かっこいいけど地味で、やたら目力の強い男の子だった。
しかし第一声は期待を裏切らない、「誰」というものである。
「帰ろうか……」
「うん」
私よりも高い位置にあるハチの方を、少し見ながら問いかける。
それから家にたどり着くまで、どちらも口を開かなかったし、ハチはあの癖をしなかった。
「で?」
「え、なにが?」
夕食を終えて、大した笑える芸人が出てるわけでもないテレビをぼんやり見ながら私が話を蒸し返す。
ハチは驚いた表情をしながら、私の方を向いた。