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戦場の兵士

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 朝を待って崩れかかった廃墟の街に足を踏み入れた俺たちは、おそらく疲弊して注意力が散漫になっていたのだろう。
 だだっ広い平原を歩くより、このような遮蔽物の多い市街地の方がよっぽど危険が潜んでいる。ここに来る前に上官に酸っぱく言われていたことを今更思い出すとは馬鹿な話だ。
 足を痛めた俺が遅れるのを見かねてカリスは立ち止まり、大丈夫かといって振り向いた。一発の乾いた銃声と共にカリスの眉間に穴が空き、全ての力が抜けるようにその場に崩れ落ちた。
 その時のあいつの顔を後になっても夢に見ることとなる。あまりにも突然で、あまりにも衝撃を受け俺は首根っこをサムにひっつかまれるまでその場で立ちすくんでいた。
 サムには感謝しなければならない。今の今まで俺が立っていた所を一発の銃弾がはねて飛んでいったのだから。
 物陰に潜み、サムは俺をようやく解放すると俺の両肩を強く叩きつけ、睨みつけた。
「カリスをやった狙撃兵(スナイパー)は俺たちを見逃してくれはしねぇ。おそらく今も虎視眈々と狙ってるだろうよ。ここを生きて出たけりゃあいつをやるしかねえんだ。」
 俺の肩を握りしめるサムの腕も震えていた。俺は小銃(ライフル)を握りしめ、しっかりとうなずいた。サムは、よしよしと言いながらそこらに落ちていた棒きれを取り上げると砂地の地面に簡単な地図を描き始めた。
「俺たちが居るのはここだ。分かるな。そして、カリスがやられたのはここ。それからこうビルが建ち並ぶ。」
 サムは慣れた手つきでどんどん長方形のビルを描き出していった。
「あそこにいたカリスをやるにはどこから狙えばいい?ビルの上か?溝の中か?車の影か?」
 俺はその中のただ一点を指し示した。破壊され、動かなくなった装甲車の下。カリスの額を打ち抜いた弾丸はそのまま突き抜けどこかへ飛んでいった。もしも上から狙いをつけたなら、銃弾は地面にめり込むか派手な音を立てて跳弾するかのどちらかだ。その音は聞こえなかった。そして、俺は突き抜けた銃弾が耳の側をかすめる音を確かに聞いている。
 装甲車の下にいれば動きは悪くなるが、上からの攻撃から身を守ることが出来るし、正面からの攻撃も当たりにくい。それだけ狭い視野であれだけ正確な射撃をするのだ。おそらくかなり名のある狙撃兵(スナイパー)に違いない。
作品名:戦場の兵士 作家名:柳沢紀雪