戦場の兵士
「サム、君には内地で待つ者はいないのか?」
「ああん?居ねぇことはねぇが。何でそんなこと聞くんだ?」
「いや、私はいまいったい誰のために生きているのか疑問に思ってね。」
「何でぇ。入隊の時に国家のためにこの命を使うって誓ったじゃねぇか。」
「あんなものは言わされているだけに過ぎないよ。真っ正直に国家のため民族のために生きることなど私には無理だ。」
「俺は国のために死ぬ覚悟はあるぜ。ま、犬死にだけは勘弁だがな。」
俺が目を覚ました時には二人はそんなことを話していた。どうやら二人は少し難しい話をしていたようで、俺が起きたことに気づくと会話を一旦止め、俺にパンくずと焦げたベーコンを投げ渡してきた。硝煙の匂いが酷くこびりついているが、そんなものが気にならない程度には慣れた。
「埃まみれだが、何も無いよりはましだろう。君は若いから食べておくといい。」
カリスの言葉に甘え、俺は10秒も立たないうちにそれを腹の中に収めてしまった。
「さて、移動しよう。君の装備品もそろえておいた。ひとまず平原を抜けて後方へ。司令室に出頭し保護を仰ぐのが一番だ。」
それはもっともな意見だが、使い捨てにした司令部がはたして生き残った死骸相手にまともな対応をしてくれるのかどうか。少し心配だったが他に頼る者はなさそうだ。敵の捕虜になるのはまっぴらだし、ここでのたれ死にするのはもっと嫌だ。
半日ほど眠っていただろうか。光のない平原と塹壕から見る星空は冬の澄み切った大気を貫く星光で埋め尽くされ、これが戦場でなければ一晩ほど眺めていたいほどだった。
「立ちな。この先に瓦礫になった街があるらしいから、休憩はそこでだ。」
オヤジ臭いかけ声を上げながら立ち上がったサムは、腰を何度かまわしながら俺の尻を蹴飛ばした。俺は急いで荷物を担ぎ、どこからか調達してきてもらった小銃(ライフル)を負い紐(スリング)越しに肩にかけ、クリップでまとめられた予備の弾丸をポーチへとしまい込んだ。
休憩所の廃墟まで後20km程か。砲弾が飛び交う中を抜けるわけではないため少しは気が楽だが、道のりは遠そうだ。
俺は、小型で折り畳み式のスコップを杖代わりにして壕の壁をよじ登ると、遙か彼方で行われている戦闘の火を僅かに眺めると二人の後について足を進めた。
***
カリスが死んだ。あっけなく死んだ。