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戦場の兵士

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 俺は謝りながらそこから腰を動かすと、サムは身体を起こし首を左右に振って身体の調子を確かめた。
「ふう、人心地付いたな。まったく酷ぇ目に遭ったぜ。」
 どうやら身体に目立った負傷は内容だ。若干こめかみを切っている様子だが、大した出血はしていない。自分の顔を確かめることは出来ないが、俺も二人と大同小異だろう。
「生きているのが不思議なくらいだな。・・サム、煙草をもっているか?私の物はさっきのでどこかに行ってしまったようだ。」
 カリスが煙草をほしがるのは珍しい。少なくとも俺がいる目の前では吸うところは見せたことがない。
「ねえよ。人に吸わせるぐれぇなら自分で吸ってるぜ。」
 ああ、クソ!といいながらサムはまだ形の残っている壕の壁に背中を預けた。
 それにしても、他の連中はどうしたのだろうか。生き残ったのは俺たちだけか?カリスは俺の様子を悟ると、
「司令部はここを放棄したようだな。いきなり後方から味方の支援砲撃を受けて敵は撤退。そのせいでここは壊滅。酷い話だ。これでは味方にやられたようなものではないか!」
 まるで憤慨したかのような悪態をつくと、手袋で被われた拳で地面を殴った。
「あのときのでっかいのは味方の奴だったのかよ。畜生、俺たちをなんだと思ってやがる。」
 俺たちは捨て駒にされたということだ。今思えば最前線に近い場所で100人程度しか配備されず、壊れた機関銃(マシンガン)をすぐに補給しなかった辺り前の戦闘から既にこれは決定されていたことなのかもしれない。
 やりきれないが、今は怒っていられるほど身体も精神も余裕はない。
「ひとまず夜になるまで待って、それから動くかどうか決めよう。暫く休むといい。」
 カリスはそういって側に投げ出されてあった自分の短機関銃(サブマシンガン)を引き寄せると作動チェックを始めた。調べると俺の小銃(ライフル)はさっきの衝撃で真っ二つになってしまっていた。後で使えるものを拾っておいたほうが良さそうだ。
「ちょっと失礼するぜ旦那。」
 サムはそういうと、少し前まで上官だった男の亡骸から煙草とマッチを失敬するとぷかぷかと吹かし始めた。
 それにしても腹が減った。もうどれぐらい食べていないのか。いい加減空腹で気が遠くなりそうだ。遠くなる気に任せて俺は寝てしまうこととした。存外眠りはすぐにやってきて俺の意識はまた途絶えた。

***
作品名:戦場の兵士 作家名:柳沢紀雪