戦場の兵士
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「まるで蟻の大群だなありゃあ。」
視線の先に群がる黒集団を眺めてサムがため息をついた。その襲撃はセオリー通り、太陽を背負ってやってくる連中は逆光で真っ黒に染まっている。蟻の大群というのも言い得て妙だと俺は思った。
「あと4000メートルほどか。数はおそらく1000をこえてるな。ご苦労なことだ。」
カリスの目利きが正確なら、こないだの2倍か。連中もそろそろ本腰を上げて潰しにかかっているようだ。
彼我の戦力差10倍。襲撃には3倍の戦力を用いることがセオリーだが、これは少しやりすぎだ。しかもこちらには機関銃(マシンガン)が1台しかない。全滅は必至に思えた。
小銃(ライフル)を支える手が震え、照準と照星を上手く合わせることが出来ない。気がつくと膝までもが笑い始め足場の悪い地面に身体を固定することが困難になってしまった。
俺はそれを紛らわせるため隣に立って短機関銃(サブマシンガン)をしっかりと抱え込むカリスに声をかけた。
もしもこの世界から戦争をなくそうと思ったらどうすればいいと思う?その言葉にカリスは驚いたような表情を浮かべると、少し考え肩を落とした。
「そりゃあ、戦争を起こす人類そのものを滅ぼさない限り無理だろうね。」
カリスは落ち着いていた。横目で少し見ると彼の銃口は一点固定されており全くぶれることがない。
嫌な話だ。俺は不快なため息を付くと射撃許可の号令を待った。手の震えはいつの間にか納まっており、俺の視界を邪魔するものは何もない。俺はゆっくりと遊底を後退させ、弾倉から初弾を薬室へ送り込んだ。
「せめて俺たちは生きてかえろうぜ。な?」
|引き金(トリガー)に指がかかりそうになる俺の利き腕を横からサムが握りしめ、ニッと景気のいい笑みを俺にくれた。俺はサムのこの笑みが大好きだ。これを見ていると今日も明日も生き残れると思えてくる。
ああ、そうだな。と俺は答え、代わりに彼に戦争が終わったら内地でいっぱいやらないかと誘った。
「いいねぇ。三日三晩飲み明かそうぜ。」
「私も参加してもいいかな。」
俺の隣でそれを聞いていたカリスも笑みを浮かべていた。俺はもちろんと答え、銃を握り直す。敵はすぐ側まで迫っていた。
二人との会話を奥歯でかみしめ、俺は少しだけ希望を持つことが出来た。