戦場の兵士
ヤレヤレ、これで助かったか。カリスを失ったが、敵はとった。あいつも天国だか地獄で笑みを浮かべているだろう。
俺は肩にかけていた小銃(ライフル)を杖にしてビルの壁により掛かると、サムが寝ている間に懐から失敬した煙草を吹かした。
あいつは嫌にゆっくり歩いてくる。足を負傷したのか。
俺はサムの足下を確認するため、視線を下に下ろした。
心臓が凍り付いた
あいつの足下、少し手前。ピアノ線のような細いワイヤーが張られ、その先にある物は・・・。
サム!動くな!!!と叫びかけた俺の口は遅すぎた。
ピンッという乾いた音が響き渡り、その音の先に泳いだサム動きはあまりに遅く感じられた。
世界が粘度を増した。空気がへばり付く。時間が嫌に遅く感じられる。
ああ・・遅かったか
「サムーーーーー!!!」
俺の叫び声は轟音の彼方に消え去っていった。
何故、死骸から手榴弾(グレネード)だけ抜かれていたのか。その答えがそこにあった。
そして俺の意識は吹き荒れる爆風の中に消えていった。
***
俺はあの戦争で友人を二人失った。一人は学者のカリス、もう一人は炭坑夫のサム。二人とも個性的だったがいい奴らだった。
あの後爆風で気を失った俺が目を覚ましたのはどこかの病院だった。医者や看護婦が話す言葉が聞き取れない。敵国の捕虜になったことを知ったのは退院後捕虜収容施設に移された先にいた味方の兵士からだった。収容所の待遇は悪いものではなかった。外界から遮断され、行動も制限されていたが、最低限人間としての自由と権利は保障されていた。しかし、これならさっさと捕虜になってりゃよかったぜと笑う隣部屋の奴を殴り倒してその自由も奪われた。世話ねぇぜ、と笑う奴も殴ってやりたかったがこれ以上自由を奪われるのは嫌だったためやめておいた。
そして、終戦。俺たちは負けた。あっけない終わりだった。
その日の談話室に珍しくラジオが持ち込まれ、何を聞かされるのか期待していた俺たちの耳に入ってきたのは、俺たちの国の大統領が敗戦を宣言する番組だった。何人かはこれで終わりかと肩の力を抜き安堵のため息をついていたが、中には涙を流して崩れ去る者や、窓から飛び降り自殺を図る者まで現れて部屋は一時的に騒然とした。俺は、そのどれにも属さず、ただ冷めた眼差しで声を送り届けるスピーカーを眺めているだけだった。