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戦場の兵士

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 撃針が薬莢のリムをたたきつける音、リムの内部に蓄えられた雷管が炸裂し発射薬(ニトロセルロース)に火をつける。雷管に仕込まれた硝酸銀系感圧信管が硝煙の香りを俺の鼻孔に提供した刹那、更にバカでかい音が響き渡り少しだけ遅れて反動が俺の方に襲いかかった。
 俺の意思を離れ持ち上がっていく前床を何とか体中で押さえつけ、飛翔する鉛と銅の円錐がどうか敵の脳天にキスをするよう祈った。
 俺の祈りは聞き届けられたのだろうか。無煙火薬のニトロセルロースであったとしても銃口から立ち上る煙に一瞬視界が遮られる。サムの銃撃はやんでいた。あれだけ乱射しまくったのだ、どれだけ弾を拾っておいたと言っても20秒も打ち続ければ弾切れぐらいは起こす。
 嫌に静かだった。
 ようやく晴れた視線の先には大地を深紅に染め上げた骸が、装甲車という墓石の下に埋葬されていた。

 ふう・・・・。俺は深い、深いため息をついた。無意識のうちに息を止めていたため、少し呼吸が荒くなるが達成感の前にはそれも些末な物に感じられた。・・・勝ったのだ。あいつが、伝説の狙撃手(スナイパー)だったかどうかは分からない。今考えると、伝説の狙撃手(スナイパー)があんな単純な作戦にやられるだろうかと疑問に思うが、俺たちが生き残ったことには変わりない。

 サムは帰ってこない。気が抜けて腰でも抜かしたかと思い、俺は痛む身体を起こし彼の姿を探した。
 もう身を隠す必要はない。火をおこすことが出来る。暖かい飯にありつけるかもしれない。それはおそらく天国に違いないだろう。どこかに酒でも落ちてないものか、それがあればサムと乾杯が出来るものを。ああ、そうだ。その前にカリスの亡骸を回収しなければ。あのまま道の真ん中で寝かせておくのは忍びないな。どこか場所を選んで埋葬してやろう。

 サムは思ったとおり、ビルの影にへばり付いて息を荒くしていた。あいつが持つ短機関銃(サブマシンガン)を見てみると、どうやら弾切れを起こしたのではなく機関部が最後の最後で|排莢不良(ジャム)を起こしていたようだ。良く生き残れたものだ。あいつの運の強さには頭が下がる。
 俺は大声でサムを呼びつけた。
 サムは慌てて立ち上がると、
「ちょっと休憩してただけだ。」
 と強がり、ゆっくりとこっちへ歩み寄ってくる。
作品名:戦場の兵士 作家名:柳沢紀雪