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戦場の兵士

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 サムはゆっくりと俺の側から離れ、十分離れた頃には派手な音を立てて走り出した。銃床を折りたたんだ短機関銃(サブマシンガン)を腰に、前床近くに長く伸びた長い弾倉(マガジン)を前床銃把(フォアグリップ)の代わりに握りしめ、走りながら射撃を始める。
 サムの引き金(トリガー)コントロールはそれを初めて扱う人間とは思えないほど整えられていた。セオリーに従って三発ずつの点射は静けさに支配される廃墟の街に派手な雑音として響き渡る。
 頼むぞサム、打ち落とされるな。
 俺は、小銃(ライフル)をしっかりと握りしめ頬で銃床を磨き上げるほどにすり寄せ小銃(ライフル)を何とか固定させた。
 本当なら柔らかい依託物に前床を置き、左手で銃床を固定したかったが用意できなかった。
 硬いコンクリートの地面に肘が痛むが、それがかえって俺を冷静にさせているような気がする。
 装甲板にサムが放った拳銃弾がぶち当たり、派手な金属音を立てて四方八方に跳弾する。奴には当たっていない。当然だ、奴のねらいをつけさせないため、サムは無茶苦茶に動き回り所彼処(ところかしこ)に弾をばらまいていることだろう。そんなことで当てられる奴がいたら、そいつこそ伝説の軍人といわれるに違いない。
 しかし、それでも奴の注意を引きつけるのには十分で。奴の注意は完全に俺から外れた。チャンスだ。
 風はない、大気状態も安定しているし太陽は今俺の背後にある。
 全てのコンディションが完全に俺に味方をした。
 俺ははやる気持ちを抑えつけ、引き金(トリガー)に指を載せた。通常の軍用銃と同じようにその引き金(トリガー)は暴発を防ぐためにかなり重く設定されている。俺は引き絞り、後1ミリで撃鉄が作動し撃針を叩く所まで持って行く。誰に教えられたわけでもないが、俺の指はそれを知っていた。もしもこれがシングルなりダブルのセットトリガーだったのならここまで緊張して引き金(トリガー)を引くこともなかっただろうが、今はどうでもいいことだ。
 奴もまた引き金(トリガー)に指をかけた。その時、奴の身体の動きは最小となり小銃(ライフル)は身体を介して地面に接合される。
 あばよ。俺はそれを言葉にしていたのかははっきりと覚えていない。
作品名:戦場の兵士 作家名:柳沢紀雪