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戦場の兵士

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 それにしても見えない。相手が何処にいるのか分からない。俺は地面に這い蹲って必至に目を細めるが、そこにいるはずの場所には全く生き物の気配がしない。念のためそこら辺に落ちていた埃だらけの毛布を身体に掛け、顔には泥でペインティングしているがはたしてそれが有効なカムフラージュになっているかどうかは怪しいものだ。
「いたか?」
 なるべく影から身体を出さないようにサムが俺の側にパンのカケラを置いたが、俺は身じろぎせずそれに手を伸ばすことも出来なかった。
「焦るな。お前がいるっていったんだ、だったらそこにいるだろうよ。いつか尻尾を出す。それまでの辛抱だ。」
 サムは、それから少し離れたところに移動し短機関銃(サブマシンガン)を分解し油にまみれたウエスで丁寧に機関部を磨き始めた。そこらに転がっていた味方の死骸から弾を多く回収できたのがご満悦なのか、サムは少し機嫌を良くしているように見えた。
 だが俺は、その死骸のどれにも手榴弾(グレネード)がなかったことに少し引っかかった。使い切ったのだろうか。いや、この辺りに手榴弾(グレネード)を使った形跡は確認できない。ならば、行軍中の敵兵か残った味方が回収していったのか。それなら弾も一緒に回収していくはずだ。
 何かおかしい。
 なあ、サム。シモン・ザイケフって奴を知ってるか?静かで嫌に鳴り響く声を潜めて俺はサムにそう聞いた。
「ああん?そりゃおめぇ。それをしらねえ兵士なんざ単なるもぐりだろが。」
 太陽が沈み、目標の装甲車の輪郭が闇の中に沈み始めた頃合いに俺は一度監視を中止し、サムの所へ匍っていった。念のため毛布を丸めて今まで俺が寝そべっていた所においておいた。
 サムは賞味期限の切れた缶詰を俺の方に投げ寄越すと、泥が混じった水を口に含み眉をひそめた。
 シモン・ザイケフ。戦場にいる人間なら一度は耳にしたことがあるだろう。敵国の伝説的狙撃手(スナイパー)で現在も現役の軍人だ。昔読んだことのある本にはそう書かれていた。
 火をおこすわけにはいかず、徐々に冷えてきた空気に身体を震わせながら俺は冷たいコンビーフをゆっくりと咀嚼する。不味い。腹をこわすことはないが、とにかくこの味はいただけない。ともかく何か暖かい物が食べられれば俺は今すぐあの狙撃手(スナイパー)に打たれてもいいねと冗談じみて話すと、サムは声を潜めながら豪快に笑い、
作品名:戦場の兵士 作家名:柳沢紀雪