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ゲップ羊と名ピアニスト

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 記憶に無いことを問われ、戸惑う黒川は久保田に視線を向けるが、久保田は茫然自失の体のままだ。
「いえ、おそらくそうなはずです。つまりはですね、久保田さんは黒川さんを殺した極悪人。だから畜生道。で、黒川さんは罪無き被害者。だから来世に恵まれる。そういうことなん」
「ふざけんなぁああぁあああぁぁっっっっっ!!!」
 久保田のほうこうが轟き、折りたたみの机が宙を舞う。
「俺たちは一緒に自殺したんだぞ!!なんで俺だけがこんな目に合わなきゃなんないんだよぉっっ!!!」
「久保田……」
「そうは言われましても。こればっかりは私どもが決めてるわけでもないですし」
 忘我の怒りに身を任せ、机を蹴りつけ続ける久保田。理不尽なまでの処遇にその怒りは机からもっと具体的な敵を求め、視線がさまよい、そして止まった。
「久保田?」
「ふざけんなよ黒川てめぇ!!なんでお前の来世ばっかり恵まれてんだコラァァアアア!!」
 久保田は怒りに任せ机を持ち上げると、渾身の力で黒川へと振りかぶった。
 勢いがついた机は、しかし黒川に叩きつけられることはなかった。
「!!??!?!」
 先ほどの豊崎の時のように机が黒川をすり抜けたのではない。
 黒川の姿が消滅したのだ。
「あぁ、もうお時間のようですね」
 豊崎がポツリと言った。
 怒りのぶつけ所を突然失った久保田はその矛先を残った豊崎に向けた。
「ふざけんな!!俺は輪廻転生なんかしねぇぞ!!なんで俺だけ殺人犯にしたてあげられてひつ……」
 途中まで紡がれた言葉はその主の消滅によって途切れた。
「よっこいっしょと」
 二人の居なくなった部屋で豊崎は久保田の暴れた後かたづけをする。机を起こし、椅子を並べながら、小さくひとりごちる。
「まぁ、さすがにちょっと気の毒ですかね」

 こうしてこの世を呪った二人の若者が消え、温暖化ガスとなるゲップをする羊と世界的名ピアニストが生まれることとなった。
「う゛ぇえっぷ」
 今日も羊は草を食みゲップをする。