小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

限り無く夢幻に近く

INDEX|5ページ/24ページ|

次のページ前のページ
 

 タタン、タタン。
 揺れる電車の中をおぼつかない足取りで進む。窓の外とは反対に、前へ前へと。車両の端に辿り着くとまた次のドアを開ける。
 ガタゴト、ガタゴト。
 どれだけ扉を開けたろう。いくつ車両を来ただろう。それでも他の乗車客はなく、列車の果てにつくこともない。
「これで何両目だ?」
「うーん。八両目を過ぎたところで数えるのは止めちゃったよ」
 うんざりした声音が返ってきた。橙色の染み付いたその背中を追う。大きな窓から嫌でも外の風景が視界に入る。目がおかしくなりそうだ。
「本当に変だよね。この前までは雲海を泳いでいたのに」
「なんというか……単調だな。歩いてても眠くなる」
 次第に同じ場所をぐるぐる回っている気がしてきた。それでも立ち止まらずにひたすら進む。時々踏み切りにさしかかって、赤色のライトが一瞬で遠ざかっていく。
 数えられないほど扉をくぐってきたものの、幸い体力的な疲れはなかった。疲労よりも飽きのほうが占める割合は大きい。

 揺れる揺れる。
 まるでこの自信のなさが、世界を揺らしているようだ。
 不安定で。ただ立っていることすらままならない。二本の足で大地を踏みしめることがこんなに難しいなんて、知らなかった。

「しりとりしようか」
「はぁ?」
 突然の提案に思わず妙な声をあげる。懐かしい遊びだ。しりとりなんて、よほど暇でもすることはないから。
「どうせ暇じゃないか」
「暇って言やぁ、暇だけど」
「じゃ、いくよ。しりとり」
「り。りんご?」
「ごまだんご」
「あ、ずりぃの」
 アキトは返事を待つことなく、勝手にゲームの開始を宣言した。

 言葉遊びは止まりかけの意識を起こすのに適した。最初はお互い簡単なものを並べていたけれど、次第に語彙がなくなってきた。
 その間も俺達は列車の中を歩き続ける。アキトは前を向いたまま、俺は背中を見つめたままで。
「暗中模索」
「え、四字熟語?」
「いーだろ。次、く」
「苦悩」
「嘘」
「喪失」
「梅ー雨」
「ユウウツ」
「……」
「……」
 ふと訪れた静寂。精神的疲労はどうやら思考にも影響を及ぼすらしい。
「暗いな」
「暗いね」
「そろそろやめるか」
 久しぶりに顔を合わせる。彼がニヤリと笑った。それを苦笑で迎える。
 そしてまた、足を動かすだけの時間が帰ってきたのだった。
作品名:限り無く夢幻に近く 作家名:篠宮あさと