限り無く夢幻に近く
流線。閃光。
視界の隅、空の裾に尾を引く輝きがある。少しずつ自身を燃やし、やがて朽ちていく美しい姿。
それは炎だった。燃え落ちていく姿のはずなのに、それはとても神秘的な光景だった。
空の星は落ちる。力尽きた果てが地上だ。地球に落ちて、母なる海の中へと。新しい生命へと。海星の前は星、星の前は……
「あれは……彗星?」
肉眼で捉えられる儚くも強い蒼色だった。薄れていく。流れていく。いつか消えてしまう。その前に、会わなくてはいけない。自己満足だとしても会わなくては駄目だ。
会って、今度こそちゃんと話をしたい。
ふいにジーンズのポケットが熱を持った気がした。慌てて手を入れる。探れば四つ折りの厚紙が底から出てきた。彗星と同じ色の紙、夜明けの海と同色の画用紙だ。俺は一つの予感のままにそれを開きあけた。
内側には言葉少なに文字が認められていた。サインペンの見慣れない筆跡。けれど、彼の字だとすぐに分かった。
『たったひとりで進まなければいけない、君へ』
その言葉に胸が詰まる。涙の代わりに息を呑んだ。
――やっぱりあいつには、何もかも見透かされてる。
『見つけることは出来た? もし答えが出たのなら、出口で待ってる』
思い出すのは微笑み。掌の温かさ。
(大丈夫。降りれるさ、必ず。僕は信じてるから)
(そんな奴じゃないって、信じてる)
ただただ紙の上に視線を落とす。最後の一文字まで溢さないように。一文字まで見失ってしまわないように。
その言葉をどうにかして俺からも伝えたくて。
『いつまでも、大切な君へ』
会わなければ。謝らなきゃいけない。
ちゃんと終止符を打たなければいけない。置き去りだった言葉を伝えなければいけないんだ。
最後まで読むが早いか、踵を返すのが早いか。四つ折の紙をポケットに戻して、俺はひとり、列車の中を戻った。
目指すは最後尾。彗星の向かった方向へ。もうひとつの運転席がある場所へ。