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サクラサク

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「ちょっとさみしい。でも、ここにいれば、あえるから」
 ふわり、と風が舞った。木がざわざわと風に揺れ、ざあっと花びらを散らしていく。少女の上からも沢山の花びらが舞って、彼女はわあ、と歓声の声を上げていた。
「――桜の花びらは、命なんだね」
 篤史が小さく呟く。それは、風の中に立ち消えてしまうほどの声だった。
「おにいちゃん!」
 篤史の向こう側の誰かを見つめて、少女はぱあ、と表情を明るくした。そして篤史を越えて駆け出す。
 篤史が振り返ると、そこにはスーツを着込んだ、長身の男が、少女に向かって微笑みかけている姿が見えた。
「愛理。ここにいたのか」
「うん! お兄ちゃんとね、話してたの!」
「そうか」
 屈んで少女の話を聞いていた男は、立ち上がって彼女と手をつなぎながら、篤史へと視線を向けた。そして、驚いたように目を丸くして、篤史に話しかけてくる。
「――去年、定期演奏会で独唱してた?」
「え?」
 唐突に掛けられた言葉に、篤史はぽかりと口を開いた。そんな彼に、少女の兄はびっくりした
、と呟いてくすくすと笑う。
「偶然だね。俺、音楽部のOBなんだ。ものすごくピアノと歌が上手い男の子が入ったって噂を聞いたけど、まさか本人に会えるとは」
「――え、と、あの……」
 突然の言葉に、口を開いたり閉じたりして戸惑っている篤史に、彼は優しい笑みを見せる。
「愛理と仲良くしてくれてありがとね。俺は仕事があって、昼間あまり妹の面倒を見てやれないし。これからも、仲良くしてやってくれると嬉しいな」
「え、そんな、お礼を言われる事は――」
 篤史は更に戸惑った。なんせ、彼女とは昨日出会ったばかりで、今日もたまたま話をしていただけなのだ。おろおろと戸惑う彼に、何を思ったのか、少女の兄は口の端を上げていた。
「うちはすぐそこのアパートだから。君さえよければ、時々この子に歌とか教えてあげてくれると嬉しいな」
 それじゃ、と兄はぽかりと口を開く篤史に背を向けると、桜並木の中を歩いていく。
 少女もまたね、と手を振って篤史に背を向けた。
「――教えてあげて、かぁ」
 篤史は予想外の言葉をぼそりと反復する。
 ぼそりと反復して、どうしてか分からないが、自然と笑みが零れるのが分かった。
作品名:サクラサク 作家名:志水