サクラサク
既に決められた道の上をただ歩くだけの、世界。
――本当に、僕は生きているのだろうか。
ふと、少女のあどけない声が耳に甦る。
(――ねえお兄ちゃん、どうしてさくらの花びらは、じめんにおちちゃうの?)
決して誰に意味を見出されることも無く、花さえも散ってしまうのならば。
生きてゆくことに、意味はあるのだろうか。
* * *
今日も彼は部活だった。定期演奏会前なので、春休みの癖に、毎日部活があるのだ。
篤史はいつものように、桜並木がずらりと花を咲かせている川べりをすいすいと歩いていく。
「あ、お兄ちゃん!」
その時、あどけない声が彼の後ろから聞こえてきた。篤史がくるりと振り返ると、そこには昨日出会った、少女が歩いてきていた。
「やあ。今日もここにいるのかい?」
「うん! あのね、おしゅうじのきょうしつがあるの」
「――そうなんだ。いつもここを通って帰るの?」
「うん!」
人見知りをしないらしい少女は、昨日の今日なのに、篤史に沢山の事を話してくれる。篤史はふと、口元が緩むのを感じていた。
今日もひらり、ひらりと落ちていく桜の花を見つめている少女に、そっと尋ねてみる。
「桜は好き?」
少女は笑顔で振り返った。
そして、こう言うのだ。
「うん。お父さんとお母さんみたい!」
「お父さんとお母さん? どうして?」
少女の口から出た言葉に、篤史は若干の戸惑いを覚えながら、そう聞いていた。
さらり、と桜の花びらが落ちる。
「お父さんとお母さんは、うみのなかにきえていっちゃったから」
「え……」
少女の答えに、彼は言葉を失っていた。そんな彼に気がつく事無く、少女は話を続けている。
「あのね、お父さんとお母さんは、桜のはなびらににているの! おとうさんとおかあさんはね、うみではたらくせんしなんだって、いつも言ってたんだよ!」
少女の顔色をそっと伺ってみるが、少女は、楽しそうに話していた。まだ両親の死を理解していないのか、それとも、もう悲しみは乗り越えたのか。
篤史は少しだけ迷ったが、やはり聞いてみることにした。
「……お父さんとお母さんいなくて、寂しくないの?」
少女は、篤史の言葉に少し何かを考えているようだった。何かを考えて、そして桜の木を指す。