サクラサク
そしてもう一度、桜並木へと視線を向けて――、彼の心がどきりとするのが分かった。
少女と、少女の兄と。
――そしてその横にふたり。
彼らを挟んで、四人で手をつなぐ、彼等の両親の姿が見えたような気がしたから。
その光に満ち溢れた光景は、一回瞬きすると消えてしまっていた。
だが、彼の心にその光景は刻まれて、そして胸の奥が妙に温かかった。
さわさわと枝を揺らす桜の木を見上げる。
今日も薄桃色の花びらが、精一杯の命を主張して、咲き誇っている。
「――きらめけ、青葉よ。さわやかに、そそげ心よ」
気がつけば、彼は歌を口ずさんでいた。
原稿用紙 19枚と2行
総行数 382行
総文字数 5751文字