Awtew.2 (e-r) 1
3
世良木 歩香(セラキ アユカ)。彼女の名前が書かれたプラプレートを見つめる。
この病院は、国内で五本の指に入るほどの有名大学病院なので、一般病棟でもそれなりに高いが、その中でもVIP病室みたいな部屋がある。
世良木 歩香(せらき あゆか)と書かれたプラプレートは、まさしくそのVIP病室のスチール名札に入っていた。
まじかよ。確か、ここの病室、年間一千万くらいかかるところだぞ?
世良木さんは歩行補助具に寄りかかりながらも、そのドアを開け、どうぞ、と僕を招く。
恐る恐る、その中に入る。
広かった。そして、白かった。
親父が入った二人部屋より四倍ほど大きい面積で、親父が入った二人部屋より十倍ほど清潔だ。
格が違う。頭がクラクラした。
「どうかしました?」
世良木さんが心配そうに聞く。僕は「なんでもないよ」と答え、二、三歩前に進んだ。
すると、ベッドの向こうが見えた。
大量の漫画と、大量のスケッチブック。
横から世良木さんが歩行補助具を押しながら歩き、そして、よろよろとベッドの上に座った。僕も近くにあった椅子で対面になるように座った。
「えっと、まずは自己紹介ですか?」
同意を取られてもな。まあ、とりあえず「そうだね」と言った。
「世良木 歩香といいます。初めまして」
「僕は西倉 夕(ニシクラ セキ)。よろしく」
「セキって、赤のセキ?」
「いや、夕方の夕」
へえ、と世良木さんは感心する。まあ、珍しいだろうな。名簿読みで最初は必ず『ゆう』と間違えられるし。
「じゃあ、セキ君でいいですよね。あ、私のことは歩香でいいですから」
「そっちがいいって言うなら」
歩香はそれを聞いてニコリと笑った。なんか、知り合ってすぐ名前を呼び合うのは変な感じだ。
「さて、お礼ですけど……私が出来るといったらこれくらい」
歩香はベッドに倒れこみ、反対側にあるものを取る。
スケッチブックと、フェルトペンだった。
「絵でも描くの?」
「うん、似顔絵でもと思って」
「なるほど」
まあ、あまり凝ったお礼よりも気楽でいいか。
パラリ、パラリとスケッチブックをめくる。そして、キュポッ、とフェルトペンの蓋を取り、書き始める。
「……動かない方がいい?」
ううん、と歩香は首を振る。その間もペンは動いている。
作品名:Awtew.2 (e-r) 1 作家名:犬ガオ