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Awtew.2 (e-r) 1

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  2


 ドアを閉める。背伸びをする。二人部屋だというのに、病室はいつも息苦しい感じがする。
 それは病院という患者にとっての閉鎖空間が醸し出す雰囲気のせいだろうか、拒まれている、と感じる。
 まあ、そんなことを言わなくても、消毒液と生の渇望とが染み付いたその匂い自体、あまり好きではないのだけれど。
 しばらくは、ここに来なければならないのか……。
 気が重くなり、ため息を吐き、頭を垂れた。と同時にドゴッ、と大きい音がした。いきなりの音に顔を上げて周りを見る。
 カラカラカラカラカラ……
 何かが回る音と共に、胸に硬い物が軽く当たった。コ型の手押し車のような物。
 歩行補助具?
 そして、聞こえる、
「……いったぁぁぁ」
 女の子の声。
 頭を押さえた女の子は、背を丸めながら床に座り込んでいた。
 僕はその歩行補助具を片手で押しながら、その子の近くに寄った。そして、ごく一般的なことを聞く。
「大丈夫?」
「……微妙に大丈夫なようで、すごくだめかも」
 すごく変わった返事だった。どっちだよ。その言葉を飲み込みながら僕は、「立てる?」と聞いた。
「何とか……」
 片手でおでこを押さえつつ、もう片方の手で床を突き、立ち上がろうとする女の子。長い黒髪が顔を遮っていた。
 んっ、んっ、んっ、と何度か手に力を込める。床を押す。腰は一向に上がらない。
 必死なその姿を見て、僕はいたたまれなくなり、再び聞いた。
「む、無理っぽい?」
「うん、とても不本意だけど、無理っぽい」
 未だに顔が見えない女の子は、力尽きたように肩を落として言った。
 しょうがない、と僕は手を差し出し、「つかまって」と言い、彼女の反応を待つ。
 しばらくして、彼女の手が恐る恐る僕に触れる。じれったい、そう思った僕はすぐに二の腕を掴み、一気に引き上げる。
 彼女の黒髪が舞い上がる。ドン、と僕の胸辺りに彼女の身体が当たる。少し、僕はよろけた。
 抵抗がないために起きた、衝撃。
 彼女が僕の顔を覗くように、顔を上げる。
 一瞬、そう、一瞬で全てを奪われた。意識、価値観、感覚、その他もろもろ。
 略奪? 剥奪? 暴奪? 奪われたのは事実だが、どれも違う。……望奪、これが一番近い。
 乱れた長い黒髪。泪が溜まったその大きく見開かれた黒眼。スキリと、光が透き通るような顔つき。小さな、色素の薄いピンク色の唇。
作品名:Awtew.2 (e-r) 1 作家名:犬ガオ