Awtew.2 (e-r) 1
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親父が事故に遭った。
男手一つで僕を育て上げたその親父が、営業で車に乗っていたとき事故に巻き込まれ、両足骨折で五ヵ月の重傷。幸い命に別状はなく、むしろ元気なくらいだ。現にベッドでうるさく叫んでいる。
「病人は病人らしくだまってなよ」
「無理だな。夢にまで見た病人ライフだ。堪能させてもらうぞ」
ガッハッハッ! そう自称病人は豪快に笑った。というか夢にまで見た病人ライフってなんなんだ?
僕は肩を落とし、梨の皮をナイフで切る。しゅるしゅると一度も皮は切れずにごみ箱に落ちた。白い果肉をさらに四等分、八等分に切り、芯を取り除く。それを皿の上に置き、爪楊枝を刺した。
ほら、と僕はそれを差し出す。うむ、と親父は手を横に出し、爪楊枝を掴んで口に運び、梨を頬張った。
「あんめぇな」
「日本の英知だからね」
僕も頬張る。水菓子のような爽やかな甘さが広がり、口に溶けた。
「会社はどうするのさ」
「有給貰ったから安心しろ」
「母さんの命日は?」
「今年はお前だけで行ってくれ」
「飯代は?」
「三日に四千ずつ渡してやる。九食分だ」
「分かった。じゃ、僕は帰るから。看護婦さんに迷惑かけるなよ。特にセクハラ」
「へいへい。つぅか、これじゃどっちが親かわからんな」
口元をにやけさせながら、親父がそう言った。
「こう育てたのは親父だ。……ま、今はゆっくり寝てなよ」
「じゃ、そうさせてもらうわ」
親父は腰辺りにあった掛布団を胸元まで上げ、目を閉じる。僕はそれを確認してから、二人部屋を離れた。梨の残りを持って。
作品名:Awtew.2 (e-r) 1 作家名:犬ガオ