Awtew.2 (e-r) 1
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なんて自分は情けなく、馬鹿らしく、愚かで、弱い存在なのだろう、そう自問しながら、学校のベランダの手すりにもたれかかり、何も無い裸山を見つめた。
歩香を襲いかけて一週間が経った。もちろん、あれから彼女の部屋に行っていない。
もう、壊れたんだ。……僕と歩香の関係は。
だけど、まだ歩香のことを考えている自分がいる。
そして、歩香のことを知ることを怖がっている自分がいる。
何故、こうなったんだろう。
僕は、ただ――、
「ここ一週間元気が無いな」
後ろから声を掛けられた。
「……そうか?」
僕は後ろを見ずに言葉を返す。
「ああ、一週間前と比べたら天地の差ってくらいに無い」
そいつ――神田 圭(カンダ ケイ)は僕の横の手すりにもたれかかり、相変わらず少し冷めた声で言った。
「そーですか」
はぁ、と僕はため息を吐き、また裸山を見つめた。何故か、その裸山が歩香のように見えた。
「ほんと、どうしたの? セキ」
また、後ろから声がかかる。
「……なんでもないって」
僕はまた後ろを見ずに声を返す。この妙に明るい声は――ケイの彼女の、水無瀬 櫻子(ミナセ サクラコ)だ。
「ほーんとっかなぁ?」
僕の前に飛び出し、その色素の薄いいたずら気な瞳で僕を見る。だから、顔近いって。
「さくら。それで問い詰めはセキに毒だぞ」
「そお?」
ミドルロングのセピアを揺らしながら、サクラはケイの横にしゃがみこむ。
「ま、なんかあったのは確実、だろ?」
ベランダ横の窓際の机で、ブルーバックスを読みながら、神乃形 誠志郎(カンノカタ セイシロウ)は皮肉混じりの声で僕に言う。
この三人とはもう中学の頃からの付き合いだ。親友と言ってもいい。
「心配してくれるのはありがたいけどさ、なんでもないって」
だけど、その三人でも、「実は女の子を襲いかけてさぁ」なんで言えるはずも無い。
「うっそだぁ」
にやにや、とサクラは僕を見上げる。
「恋に悩んでる顔ですな、少年」
いきなり爺さん言葉でずばり命中発言をする恐るべき女の勘。だけど僕は、はははと軽く笑った。
「ありゃ、違うの?」
「違う違う」
仕方なく、僕は嘘で固めた。
「セイ、ちょっとサクラを連れて行ってくれ」
「へいよ」
「へ?」
作品名:Awtew.2 (e-r) 1 作家名:犬ガオ