Awtew.2 (e-r) 1
死ぬ奴の言葉じゃないか。
「そーかも」
理性と野性の表裏の言葉。口から出た僕は野性。心の中の第三者な僕は理性。
くっきりと、はっきりと、別れてしまった。
理性は囁いた。
野性は叫んだ。
歩香の身体が見えた。
華奢で、発育が良いとは言えない。
だけど、扇情的に感じる。
彼女が潤んだ眼で僕を見ていた。
彼女の白いはずの肌が徐々に赤みを増していって、
彼女の吐息が、途切れ途切れに、速くなっていく。
「……くっ」
僕は、口内をかみ締めた。血の味が、唾液に混じる。肉が頬裏に削げ落ちた。
痛みさえも、この行動の助長にしかならない。
――誰が、これに、逆らえる?
そして、そのまま――――
僕は、歩香の唇を、奪った。
歩香の口内を僕の舌と血の混ざった唾液で侵していく。
彼女を、僕に染め上げていく感覚。
彼女の舌はとても小さく、敏感で、僕にされるがままだった。
淫猥な音が、僕らの口から起こる。
息が苦しいのだろうか、歩香は歪めた顔を僕に見せる。
――誘ったのは、そっちだ。
歯止めの利かない野性の暴走。
何分経っただろう、歩香の眼には泪が溢れ、とめどなく流れていた。
唇を、歩香から離す。
さっき以上に乱れた吐息が、耳に届く。心臓の鼓動さえも、鮮明に聞こえた。
歩香が、僕を見た。――あの、空(くう)を見る眼で。
「ぁ」
――何をやっているんだ、僕は?
――これじゃあ、まるで、
母さんを
襲った殺人犯と
一緒じゃないか
頭がイタイ。手がイタイ。足がイタイ。胸がイタイ。眼が焼け付く。酷い耳鳴りが襲う。震えが止まらない。身体に蛆が走る感覚。嫌悪感が凶器になり、僕の身体を蝕み、切り刻むような痛みを与える。ダメだ、このままじゃ――
「――――はぁっ はぁっ は」
今頃気付いた事実。どうしようもない程の、真実。
「っか、――――くッ」
知って、しまった
身体の空想痛を抑えながら、僕はベッドから降りた。そして、逃げるようにドアへ走る。いや、逃げている。そう、逃げるのだ、ここから。
自分の罪から逃げる――――余計に、同じじゃないか、あの犯人と。
ドアを力任せに開け、僕はその部屋から逃げ出した。
……そのあと、自動的に閉まるドアの音が、聞こえた。
作品名:Awtew.2 (e-r) 1 作家名:犬ガオ