Awtew.2 (e-r) 1
6
昨日の夜、震えが止まらなかった。
あの、『空(くう)を見る歩香』の印象が、頭から離れない。
怖い。
単純な理由。
まだ、僕は、あの枷から抜け出せていない。
でも、今度こそは、抜け出さないと。だから僕は、歩香の部屋の前に立っている。
ノックをする。はい、と歩香の声が聞こえた。
「歩香、入るよ」
ドアを引き、中に入る。
「――セキ、来たんだ」
「ん? ああ」
一瞬、戸惑った。
歩香の雰囲気がいつもと違った。いつもの彼女が不機嫌な感じなら、今の彼女は、静かな感じ。
「そっか」
歩香が少しうつむく。僕は歩香のベッドの近くへ歩き、「どうしたんだ?」と話す。
「なんでもない」
首を横に振り、そして、僕をみて、歩香は口を開いた。
「あのね、セキ」
「なに?」
それは、突然だった。
「もうここにはこないで」
数秒の合間。僕はその言葉の意味を十回ほど反芻する。
――なんだ、って?
次の瞬間、僕は、歩香を押し倒していた。
理由が分からない。何故、こうなったのか。僕は、何を間違ったのか。
「――――っ、なんで……っ」
自然に出た、知りたいという欲望。
「なんで、じゃないよ。もうここには来ないで。それだけ」
再び、冷淡な声でその事実を反復する歩香。
「だから、それが意味わかんないんだよっ!」
――知ろうとしなかった。その癖に、よくそんな言葉が出る。第三者から見るように、僕の理性が笑った。
「解らないなら……ボクたちはそれまでの関係だった、ってことだよ」
「なっ」
まるで、僕を見透かしたような、言葉。
そう、知ろうとしないから、彼女のことが解らない。そんなこと、分かっていた。
歩香がどんな病気で、歩香はどんな境遇で、歩香はいつも何を思っていて、歩香は――僕をどう思っているのか。
自らの情けなさに、腹が立った。その怒りが、歩香を押さえつけてしまう。
「……犯すの?」
頭の中が白くなった。何を、言ってるんだ。歩香が、分からない、分からない。
もう、何でも、よくなっていく、曖昧な意識。
「別にいいよ。どうせ子供が出来ないこの体じゃ何度やっても何も残らないし、足だってもう動かないから好きなようにできるよ?」
子供が出来ない?
足が動かない?
なんだよ、それ……。それじゃあ、まるで、
「……誘ってるのか?」
作品名:Awtew.2 (e-r) 1 作家名:犬ガオ