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Awtew.2 (e-r) 1

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 歩香は、空(くう)を見ていた。焦点が分からない。何を見ているのか分からない。何を考えているのかも分からない。
 ――怖い。
 突然湧いた、恐怖感。
 足が、勝手に、後ろに下がった。
 ――何をしているんだ? 僕は。
 後ろの下がった足を無理矢理前に出す。そして、前に歩き始める。そう、無理矢理。――そうしないと、動かなかった。
「……歩香?」
 何とか歩香に近づき、声をかける。歩香は僕に気付いて、静かに手を上げる。
 バチィッ! と響きのいい音が俺の額から出た。デコピン?
「ッつうぅっ!」
「あははは、引っかかった!」
 さっきの表情とはうって変わり、仕返しに成功したことを喜ぶ歩香の顔が、僕の前にあった。
「――っ、くそ、心配した僕が馬鹿みたいじゃないか!」
 ――本当にそうか?
「へぇ、心配してくれたんだ?」
「……まあ、一応な」
 ――逃げ出そうとしていたくせに?
「あーそーですか」
「嬉しがってもいいんじゃないか? 普通」
「そういうもの?」
「そういうもんだろ」
 あれは騙しなんだ。そう、アレは演技、演技なんだ。
「ま、どうでもいいけど。さてと……ボクはまた寝るから、さっさと出て行ってね」
「また寝るのか?」
「今日は調子悪いの」
「そっか。じゃ、また」
「はいはい、さよなら」
 再びベッドに横たわりながら、歩香は追い払うのかバイバイと手を振っているのか分からない手の動きをする。
 僕は部屋から出て、ドアを閉めた。
 そして、走りだした。震える手を、押さえながら。


作品名:Awtew.2 (e-r) 1 作家名:犬ガオ