Awtew.2 (e-r) 1
2
「じゃあ聞くけど、なんでセキはボクのところに来るの?」
まるでさっきの質問を返すように歩香が僕に聞く。
「え」
立場が逆転した。
どうしたのかなぁ? とニヤニヤ笑いながら、ペンを進める歩香。
いや、答えは十分に分かっているというか分かっているからこそ答えをいえないわけであって。
言っていいことなんだろうか。いや、結構いい関係だとは僕も思う。だけど――――
だけど――――言ったら全てが終わるような気がした。
…………え?
何故そんなことを思ったのか。
少し怖くなる。
終わるとは一体どういうことなのか。何故僕がそう思ったのか。
分からない。
『分かりたくない』。
「……楽しいから来てる。それだけだよ」
僕は、虚偽の言葉をその『分かりたくない』の上に重ねた。
「なんだ。つまんない」
はぁ、とその答えを聞いた歩香がため息を吐き、ペンを置いた。
「なんだよ、つまんないって」
「別に。さ、出来たよ」
少し不機嫌そうな声を出しつつ、歩香はスケッチブックを見せてくれた。
今日の僕の絵は、窓の外をずっと見ていた。目線の先に、何があったのだろう。
3
いつも通り親父の部屋に行き、前に頼まれた買い物を置いて、梨を剥く。
「この頃楽しそうだな」
親父が梨に舌鼓を打ちながら、そんなことを聞いてくる。
「そうかな」
僕はその原因が分かっていた。けれど、口に言うのも恥ずかしいのでとぼけた振りをする。
「親をなめるなよ、ガキが」
親父が、くっくっく、と妙な笑い声を漏らしつつ、
「女に魅せられたか?」
いきなり確信を突いてきた。そう、親父はこういう人だ。
「まあね」
僕はあえて否定しなかった。「梨、貰ってくね」と言って、部屋から出た。
歩香の部屋は一般病棟より離れた棟にある。そこは24時間医師が文字通り『滞在』していて、どんな事態でも即時対応できるようになっている。
さすがVIP部屋だ。だけど、同時に『何故歩香はそこにいるのか』という疑問も沸いてくる。でも、そんな疑問は歩香に会うこととは関係がない。だから、考えないようにする。
コンコン、と歩香の部屋のドアを叩く。返事は無かった。
おかしいな、思いつつドアを引く。……開いた。
歩香はベッドに横たわっていた。
作品名:Awtew.2 (e-r) 1 作家名:犬ガオ