Awtew.2 (e-r) 1
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「そういえば、歩香ってなんで絵を描いているんだ?」
セキから尋ねられた。人が描いているのに、そんな哲学的な話を訊くのはどうかと。
「描きたいから」
安直にボクは答え、再びペンを走らせる。今日の構図はもう決まった。
「じゃあ、何で描きたくなるんだ?」
さらに踏み込まれた。またペンが止まってしまう。
「そんなに理由が欲しいの?」
ボクは少し苛立ちながら、その質問を返した。
「いや、あったら教えて欲しいな、と思ってさ」
「ない」
「……そっか」
少ししょんぼりした顔になる彼。脳内イメージが少しずれる。
『今日のセキの絵』の構図に合わない。ペンは止まったまま。
ボクはしょうがなく、ぼそりと、セキに問いかけた。
「…………今を明日に残したい、って思ったことは無い?」
「……え?」
セキは聞こえなかったらしく、ボクに再び聞き返す。
「二度は言わないよ」
「え〜〜」
不満げに口答えするセキ。
「聞いていなかったのが悪いのっ」
「聞こえるように言ってなかったのに?」
「む」
そう言われたら反論できない。しょうがなく、ボクは『前とは違うこと』を言った。
「今あることを描きたいって思ったから」
不意に出た本心を隠すために。
「……そっか。でも歩香って、よく『今』にこだわるよね」
「……まぁね」
セキが言ったもう少しでボクに触れられそうな言葉を、ボクは流した。
作品名:Awtew.2 (e-r) 1 作家名:犬ガオ