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モノガミものぽらいず

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 実家にいるときから、もう三年使ってるコタツテーブル。オレの部屋の中央に、そんな物が出ていた。確か大学に行く前には、壁に立てかけていたものだ。そしてその上には――
 湯気の立ち上る、香ばしい味噌汁の香り。
 焼き茄子に、ひじきの煮付け。茶碗蒸し。
 主菜は野菜のてんぷら。
 肉や魚は無いが、それはそれで問題ない。オレに好き嫌いは無いからな。
 だがそれはそれとして、だ。
 ――美味しいゴハンの用意もしてあるやろうしな――
 なんていう、雀の言葉が脳裏をよぎる。
「……って、なんで知ってんだよ、アイツぁ……」
 いやまて、それはそれで問題だが、それよりも、もっと問題が目の前にはある。オレは確かにカギをかけて家を出たハズだ。誰かが忍び込んで、これを作ったという事は……
「はっ? まさかストーカー? ストーキングされてマスか!? オレ!?」
 どきどきどき……
 早鐘を打つ心臓。当たり前だ。生まれて初めての事態なんだから。
「こ、このどきどきは、まさか……恋?」
 ごふっ……
 刹那、オレは自己嫌悪で吐血した。
 オレ、アタマ悪すぎ……でも、こんな時でもジョークを言える自分が好きだったりする。
 と、ふとオレは、ジーンズの裾を引っ張られる感触に気づいた。見れば、例のアイツが裾を咥えて引っ張っている。でもって、引っ張る先には件の食卓がある。
「なんだよ、オマエが作ったみたいに」
 何の気なしに感慨を言うと、
「ワン!」
 ダンボール犬は嬉しそうに一声吼えた。
「ばっ、バカ、吼えんな! 管理人が怒鳴り込んでくるだろ! ああもう、めんどくせぇ、いいか? ここにいたきゃ、大人しくしてろ? 管理人が来てお前が見つかったら、オレはあっさり引き渡すかんな?」
 オレがそう言うと……
「くぅ〜ん……」
 低く悲しそうに、ソイツは鳴いた。あろうことか、上目遣いで。
 ――くそ、オレ弱いんだよね、犬系のこういう眼差し――
 だがしかし、『一時』とはいえ、飼い主『代理』をやってやろうかと『成り行き』で決めたワケだ。甘やかすワケにはいかん。
 オレは大人しく食卓に着くと、取り敢えず箸を取り、迷うことなくマイタケの天ぷらを取った。仮にストーカーの仕業だとして、オレの事が好きならば、毒の類なんかを仕込む事はないハズだ。
 ――いや、睡眠薬ならあり得るか――
 眠らせてから、このオレの、無垢な身体にイタズラを……ひいいぃぃぃ!
 ごふっ……
 再度の吐血。この歳で無垢ってあたりがリアルに悲しいが、まぁ、この緊急時だ、取り敢えず置いておこう。
 などと考えていると、不意にダンボール犬が、オレの天ぷらにかぶりついた。そして数回咀嚼して呑み込むと、そのままその場に伏せた。
 オレはソイツを五分ほど観察してみる。
「……即効性はないみたいだな」
 そう呟くと、オレはようやく飯を口に運んだ。
 美味い、と、素直にそう思った。そして、オレはその味を知っていることに気付く。
 懐かしい味だ。
 そう思った。
 それは昔逗留した、ばっちゃんの郷で味わった、紛れもないばっちゃんの味だった。
 オレはふと、あの封筒を思い出す。あれが箱に入っていた物ならば、あれはばっちゃんからの物に違いない。
 ポケットから手紙を取り出し、雀が造った『ヨミステールくん』を掛ける。
 すると、そこには確かに、オレへのメッセージが浮かび上がって見えた。

「はく……び……」

 懐かしい、

 とても懐かしい、

 その名。

 オレは、そっと傍らを見る。

 視線の先で、『彼女』は、なつっこい眼差しを、オレに向けていた。