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彼女はいつものシニカルな笑みを浮かべ

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 「くそっ!」
 
吐き出しようのない思いをセンターキューブにぶつける。もう用の無い代物だ。固い地面に叩きつけられたそれは破片を飛ばしながら醜く砕け散った。パキッ、という。軽い音を立てて。

 「……何、やってるの?」
 
声が聞こえた。聞き覚えはあるけど聞き慣れてはいない声。これから聞き慣れていけたら、きっと幸せに思えるだろう声。

 「うわっ、センターキューブ割ったの? 上手くいかないからって物に当たるのはどうかと思うけど」
 
顔を上げればそこに在るのは、いつもはシニカルな笑みを浮かべている顔を、しかめっ面にした――彼女。この顔を拝めただけでも満足してしまいそうになる。でも俺はこれからもっと色んな表情を見ていきたい。

 「ちょっと、何とか答えなさいよ」

 「……ああ」
 
言いたい事は沢山ある。だけどゆっくり言えばいい。
聞きたい事は山のように。だけどゆっくり聞いていたい。
知りたい事は切りがない。だけどゆっくり知っていこう。
ずっと一緒に居たいなんて贅沢は言わない。卒業するまで。学年が上がるまで。季節が変わるまで。ほんの短い時間で構わない。一瞬を大切に生きていたい。後悔は、したくないから。

 「お前を待ってたんだ」

 「……え?」
 
ああ、頭の中がグチャグチャだ。あんなに考えていた台詞が一つも出てこない。

 「伝えたい事がある。聞いて、貰えるか?」

 「……うん」

だけど、言葉は止まらない。大切な気持ちが次から次から湧いてくる。

 「俺は、何となくであの場所に居たんじゃない」
 
砕けたセンターキューブを見る。小さな迷路は失われた。広すぎて迷子になりそうな世界を、これからは歩いていこう。

 「……お前の事が、知りたいから。あの場所に居たんだ」
 
俺の顔はきっと真っ赤になっているだろう。でも本心だから。恥ずかしくなんて、ない。

 「だから教えてくれ。ゆっくりでいい。……知りたいんだ」
 
伝えたい事は全て言葉にした。彼女に届くかは分からない、だけど信じてる。祈るように紡いだのは、新しい世界を作るキッカケの言葉。

 「…………それだけ?」

 「ああ、それだけだ」