ひとりかくれんぼ/完結
その不自然な音が、俺の名前を呼ぼうとしている。見つけたという、宣言をしようとしているんだ!頭の中がパニックを起こしていた。駄目だ、そんなことしたら、今度は俺が…違う、その前にタイムリミットが来てしまう。
思わず、やめろ、と言いかけた口に、水たまりの水が入ってきた。
が、それが、
(これ…微かに、しょっぱい…?)
さっき塩水を噴き出してしまった時に、おそらく、この水たまりにも塩水がかかったんだろう。俺が最後に口に含んでいた塩水は相当な濃度だった。だから、きっと、もしかしたら…!
痛む背中をこらえて、顔をあげた。そうして、声を振り出した。
「井坂、弘毅のっ…勝ちっ…」
ゴッ、コゥ…ウウウゥア、キ…っ
背後の女も声を上げる。何を言っているか、聞き取れない。聞き取れない、気にしている場合じゃない。女より、先に、3回、言わなければ、ならない。
「いさかっ、こうきの…かち!」
意識が朦朧とする。口が回らない。女のうめき声と妹の泣き叫ぶ声が頭に響く。口の中が、塩っぽい。あと、1回。
「い、さか…こーき、のっ…か、」
黒い影が、すうっと伸びていく。
『みいつけた』
作品名:ひとりかくれんぼ/完結 作家名:笠井藤吾