ひとりかくれんぼ/完結
「井坂は、長瀬祥子の身代わりである人形…長瀬祥子にもっとも近い存在に、再びおにごっこの宣言している。それって、まずくね?」
トントントン…
トントン、トン…
沈黙。汗。音。鋭い視線。問い掛け。そして、恐怖。
私は、思わず、その場にずるずるとへたり込んだ。頭がくらくらとする。信じられない。怖い、怖い、怖い。これから、どうなるの?どうしたらいいの?私は、私たちは、本当に何か恐ろしいことをしてしまったんじゃないか。
そう思った時だった。
ヴヴヴ…ヴヴヴ…
低い音が鳴る。ケータイのバイブ音だった。思わずびくりと身をちぢこめて、パーカのポケットを触った。私のケータイじゃない。今井さんの方を見ると、今井さんは立ち上がって自分の黒いケータイをじっと見ていた。そうして、私に歩み寄り、私にそのケータイを突きつけた。まぶしい画面、そこには、着信。
「愛川、この番号、知らない?嫌なことを、俺は、期待してるんだけど」
今井さんの声が僅かに、震えていることに気が付いた。私はすぐに、自分のケータイを開いて電話帳を探す。長瀬サチの番号、080-XX3X-22XX…違う。じゃあ、じゃあ、井坂ななみ。
井坂ななみの番号は、
「…それ、ななみサンのケータイ、から…です…」
ヴヴヴ…ヴヴヴ…
低いバイブ音が、鳴っている。
作品名:ひとりかくれんぼ/完結 作家名:笠井藤吾