唯一神
5年前―当時の俺は12歳だった。
両親は俺が3歳の頃に他界した、らしい。
それから俺は施設に入れられて育ったんだ。
周りは俺と同じ境遇の奴らも多かった・・・そうだが、生憎として俺はそんな事に興味がなかった。
両親が他界したショックからか、はたまた元から何にも興味を持つことの無い性格だったのかは分からない。
そういえばこの頃は両親が何故死んだか・・・なんて事も知らなかったんだよな。
事故で死んだという事は誰に聞いたかは忘れたが覚えていた。
そして10歳の頃だったか、俺を引き取りたいと言ってきた物好きが現れた。
30代後半くらいの顔つきで、かなり鍛えているのか筋肉がかなり逞しかった。
しかし、それが災いして折角俺を引き取る為に正装した服がパツパツになって、今にもはちきれんばかりだ。
そんな大惨事になっている服の事は全く気にも留めてない様子でおっさんはにこやかに俺を引き取ると申し出た。
笑顔と口周りに蓄えた無精髭が特徴的なおっさんだった。
『世界に絶望するなんて思うにはお前はまだ若いんだよ!』
豪気な口ぶりで事あるごとに言っていたな。このおっさんの顔はいくら物事に興味を持たない方である俺でも覚えている。
俺が唯一過去の人間で忘れられない顔だ・・・。
でも、それとは別にして俺は世界に絶望した!なんて一言も言ったことはないんだけどな―。
変わったおっさんだった・・・本当に。
それからなんだかよく分からない手続きの後、このおっさんと生活を共にする事となった。
施設での俺の生活態度を知ってか知らずか、あまり他人と打ち解けようとしなかった俺におっさんは気さくに喋りかけてきた。
話すのではなく、喋る。
俺から何か喋ることは無く返答すらない。にも関わらずおっさんは喋りかける。他愛ないことを。
何を喋ってきたかなんていちいち覚えてないが、例のあの言葉を繰り返し使ってた事だけは―覚えていた。
―世界は圧倒的に狭かった。
おっさんの家はまるで城のように大きかった。それ故に他とは異なり、歪だった。
人里離れた山の中にポツンと聳え立つ西洋の館。
それはまるで映画に出てくるヴァンパイアの居城やゾンビの巣窟のような不気味さをかもし出していた。
その他に歪と思う要因として・・・雨。
歪と言うからには何かしらそう思う要因がある。
館から見下ろす時、否応にも目に飛び込んでくる人の暮らす家。その環境は全く違っていた。
屋根一面に瓦を敷き詰めてその横で耕作をしている家。
まるで玉ねぎのような堂々とした屋根をした家もある。
かと思えばその隣は赤レンガで造られたシンプルな家という始末。
そんな物を見てるうちに世界の方が歪なんだと思わざるを得なかった。